学校から家に帰って、やることもなく自分の部屋でボーッとする。最近は暇があれば侑斗と一緒にいたから、この感覚も久しぶりだった。
ベッドにぼふりと身を投げれば、お日様のいい匂いがする。先日母親がシーツを天日干ししてくれたから、そのおかげだろう。
このベッドに、侑斗と彰良は一緒に寝た。その事実が今更になって、彰良の胸をときめかせる。
ウェーブがかった髪の毛に、とろりと甘く垂れた優しい瞳。ミステリアスさを醸し出す泣き黒子に、少し怠そうに話す喋り方。
元バスケ部で、脱げば意外に筋肉質なことを知っている。
その薄い唇が、自分の名前を呼ぶ瞬間が、彰良は何よりも好きだった。
いつの間にか、手が下半身に伸びていた。ダメだと分かっているのに、己を慰める手が止められない。
「あ、あ、……侑斗……!」
その端正な顔にキスがしたい。その身体に触りたい。その長くスラリとした綺麗な指で、彰良を触って欲しい。好きだと言って、抱きしめて欲しい。そうしてこの身を、激しく暴いて————————
はあはあと荒い息を吐く。手の中にある白濁を見て、彰良の心は一気に冷水を浴びたようにすうっと冷えた。
急いでティッシュで手を拭き、先ほどした行為を隠蔽する。自分は、なんてことをしてしまったのだろう。あろうことか、侑斗のことを考えながら、己を慰めるなんて……!
己に絶望する彰良の耳に、コンコンと、窓ガラスをノックする音が聞こえてきた。
瞬間、ギクリと身体が震える。恐る恐る視線を窓に送れば、そこには確かに、侑斗に似た人影があった。
「彰良、開けてー」
感情のない侑斗の声。これで二度目だった。だからこそ確信する。間違いない。斑目童子は、彰良の侑斗に対する罪悪感に反応してやってきたのだ。
「俺だよ、侑斗だよ」
彰良の部屋は二階にある。ベランダのない窓際に、侑斗がいる筈がない。そもそも侑斗は今、東京にいるのだ。
「どうしたの? 彰良、なんかあった?」
彰良の記憶にある、侑斗の優しい声。恐怖よりも苛立ちが勝った。まるで彰良の大切な思い出を、利用されているみたいで。
「お前は、侑斗じゃない……!」
震える身体を抱き締めながら、なんとか声を振り絞る。彰良の言葉に、窓を叩く音が止む。一瞬の静寂の後、それは起こった。
「なんで分かったの?」
瞬間、窓ガラスがばんと揺れた。彰良の視線の先には、カーテン越しに、たくさんの小さな影が見える。
恐怖に固まる彰良の前で、窓ガラス越しに、小さな子どもの声が聞こえてきた。
「彰良、開けてー」
「一緒に行こう?」
「アハハハハハハ!」
はっはっと荒い息をする。怖い。怖くてしょうがない。無意識に後退った背中が、壁にドンと当たった。
恐怖で負けそうになる心を叱咤する。壁に貼っていた静弥のお札を見て、静かに息を整えた。大丈夫だ。こいつらは、部屋の中には入ってこない。
「……行かない。俺は、行かない!」
はっきりそういうと、ガラス越しに、戸惑っている気配が伝わってくる。次の瞬間子どもの手が、ばんとガラスを強く叩いた。
「なんで、そんなこと言うのー?」
まるで鈴を転がすような、可愛らしい少女の声。その中に、不満の色が見て取れる。身構える彰良に、次の瞬間予想外の言葉が降りかかった。
「侑斗のことが、好きだから?」
「は……?」
彰良が動揺したのを感じ取ったのか、窓の外の子どもたちが、クスクスと声を潜めて笑っている。彰良の背中にじっとりと汗が湿った。
「知ってる、知ってるよ」
「彰良は侑斗が好き!」
「キャハハハハハハ!」
「侑斗は彰良の友だちなのに!」
「好きになっちゃったの!」
「侑斗も彰良も男なのに!」
「彰良は侑斗とキスしたい!」
「みんな知ってる、知ってるよ!」
子どもの声が部屋中にこだましている。その内容に、彰良はまるで処刑台に立たされた罪人のような気持ちになった。
なんで、なんて決まっている。彰良の罪悪感の正体が侑斗に関連するものならば、斑目童子が知っていることに違和感はない。
けれど、今の彰良にとって、そんなことはひどくどうでも良かった。
「うるせぇな! 黙れよ!」
小さな子どもたちから降り注がれる彰良を笑う言葉たち。悲しくて、悔しくて仕方がない。なんで、どうして、こんな目に遭わなきゃいけないのか。彰良はただ、侑斗を好きになっただけなのに。
笑い声に負けないように声を振り絞る。けれど、斑目童子の笑い声は止まらなかった。
「侑斗が好き!」
「彰良は侑斗が大好き!」
「侑斗の薄い唇とキスしたい!」
「えっちなことだってするの!」
「キャハハハハハハ!」
「身体を侑斗に触れられたい!」
「侑斗に抱きしめて欲しいの!」
「侑斗は彰良の友だちなのに!」
「侑斗も彰良も男なのに!」
「アハハハハハハ!」
心を読んだような内容に、まるで身体の中から貫かれるようだ。
「お願いだよ、黙ってくれよ……!」
彰良の身体は冷え切っていた。ジクジクと痣が疼いているのが分かる。きっとまた、痣が広がっているのだろう。
心臓が嫌な音で鳴っている。息をするのがひどく苦しい。どうしようもない絶望感が、彰良の心を侵食していく。
逃げ場を失った彰良は、身体を丸くして、ただその場に蹲った。
ベッドにぼふりと身を投げれば、お日様のいい匂いがする。先日母親がシーツを天日干ししてくれたから、そのおかげだろう。
このベッドに、侑斗と彰良は一緒に寝た。その事実が今更になって、彰良の胸をときめかせる。
ウェーブがかった髪の毛に、とろりと甘く垂れた優しい瞳。ミステリアスさを醸し出す泣き黒子に、少し怠そうに話す喋り方。
元バスケ部で、脱げば意外に筋肉質なことを知っている。
その薄い唇が、自分の名前を呼ぶ瞬間が、彰良は何よりも好きだった。
いつの間にか、手が下半身に伸びていた。ダメだと分かっているのに、己を慰める手が止められない。
「あ、あ、……侑斗……!」
その端正な顔にキスがしたい。その身体に触りたい。その長くスラリとした綺麗な指で、彰良を触って欲しい。好きだと言って、抱きしめて欲しい。そうしてこの身を、激しく暴いて————————
はあはあと荒い息を吐く。手の中にある白濁を見て、彰良の心は一気に冷水を浴びたようにすうっと冷えた。
急いでティッシュで手を拭き、先ほどした行為を隠蔽する。自分は、なんてことをしてしまったのだろう。あろうことか、侑斗のことを考えながら、己を慰めるなんて……!
己に絶望する彰良の耳に、コンコンと、窓ガラスをノックする音が聞こえてきた。
瞬間、ギクリと身体が震える。恐る恐る視線を窓に送れば、そこには確かに、侑斗に似た人影があった。
「彰良、開けてー」
感情のない侑斗の声。これで二度目だった。だからこそ確信する。間違いない。斑目童子は、彰良の侑斗に対する罪悪感に反応してやってきたのだ。
「俺だよ、侑斗だよ」
彰良の部屋は二階にある。ベランダのない窓際に、侑斗がいる筈がない。そもそも侑斗は今、東京にいるのだ。
「どうしたの? 彰良、なんかあった?」
彰良の記憶にある、侑斗の優しい声。恐怖よりも苛立ちが勝った。まるで彰良の大切な思い出を、利用されているみたいで。
「お前は、侑斗じゃない……!」
震える身体を抱き締めながら、なんとか声を振り絞る。彰良の言葉に、窓を叩く音が止む。一瞬の静寂の後、それは起こった。
「なんで分かったの?」
瞬間、窓ガラスがばんと揺れた。彰良の視線の先には、カーテン越しに、たくさんの小さな影が見える。
恐怖に固まる彰良の前で、窓ガラス越しに、小さな子どもの声が聞こえてきた。
「彰良、開けてー」
「一緒に行こう?」
「アハハハハハハ!」
はっはっと荒い息をする。怖い。怖くてしょうがない。無意識に後退った背中が、壁にドンと当たった。
恐怖で負けそうになる心を叱咤する。壁に貼っていた静弥のお札を見て、静かに息を整えた。大丈夫だ。こいつらは、部屋の中には入ってこない。
「……行かない。俺は、行かない!」
はっきりそういうと、ガラス越しに、戸惑っている気配が伝わってくる。次の瞬間子どもの手が、ばんとガラスを強く叩いた。
「なんで、そんなこと言うのー?」
まるで鈴を転がすような、可愛らしい少女の声。その中に、不満の色が見て取れる。身構える彰良に、次の瞬間予想外の言葉が降りかかった。
「侑斗のことが、好きだから?」
「は……?」
彰良が動揺したのを感じ取ったのか、窓の外の子どもたちが、クスクスと声を潜めて笑っている。彰良の背中にじっとりと汗が湿った。
「知ってる、知ってるよ」
「彰良は侑斗が好き!」
「キャハハハハハハ!」
「侑斗は彰良の友だちなのに!」
「好きになっちゃったの!」
「侑斗も彰良も男なのに!」
「彰良は侑斗とキスしたい!」
「みんな知ってる、知ってるよ!」
子どもの声が部屋中にこだましている。その内容に、彰良はまるで処刑台に立たされた罪人のような気持ちになった。
なんで、なんて決まっている。彰良の罪悪感の正体が侑斗に関連するものならば、斑目童子が知っていることに違和感はない。
けれど、今の彰良にとって、そんなことはひどくどうでも良かった。
「うるせぇな! 黙れよ!」
小さな子どもたちから降り注がれる彰良を笑う言葉たち。悲しくて、悔しくて仕方がない。なんで、どうして、こんな目に遭わなきゃいけないのか。彰良はただ、侑斗を好きになっただけなのに。
笑い声に負けないように声を振り絞る。けれど、斑目童子の笑い声は止まらなかった。
「侑斗が好き!」
「彰良は侑斗が大好き!」
「侑斗の薄い唇とキスしたい!」
「えっちなことだってするの!」
「キャハハハハハハ!」
「身体を侑斗に触れられたい!」
「侑斗に抱きしめて欲しいの!」
「侑斗は彰良の友だちなのに!」
「侑斗も彰良も男なのに!」
「アハハハハハハ!」
心を読んだような内容に、まるで身体の中から貫かれるようだ。
「お願いだよ、黙ってくれよ……!」
彰良の身体は冷え切っていた。ジクジクと痣が疼いているのが分かる。きっとまた、痣が広がっているのだろう。
心臓が嫌な音で鳴っている。息をするのがひどく苦しい。どうしようもない絶望感が、彰良の心を侵食していく。
逃げ場を失った彰良は、身体を丸くして、ただその場に蹲った。
