皇衛の一日~とつきの花嫁スピンオフ~

「ちょっと皇衛さん」

財布をなくした彼が帰っていったかと思ったら、椅子によじ登るようにして小さなお婆さんが座った。

「聞いてよ、うちの嫁がね」

「はぁ……。
えっとね、おばあさん」

曖昧な笑顔を浮かべ話を遮ろうとするが、おばあさんの話はかまわず続いていく。

「最近、足腰が弱ってるからって杖を買ってくれてね。
これがその杖なんだけど」

傍らに置かれた杖をおばあさんが叩く。

……これはお嫁さんに対する愚痴なのか?

長くなりそうだぞと覚悟したが。

「おかげで凄く歩きやすくなってね。
嫁には感謝してるの」

これならすぐに話は終わりそうだと思った僕が甘かった。
そのままいかに嫁が素晴らしいかという話は続いていく。

「あらやだ。
すっかり話し込んじゃって。
嫁におまんじゅうを買いに行くところだったのに。
じゃあね、皇衛さん」

ひとしきり話して気が済んだのか、唐突におばあさんは帰っていった。

「……おつかれ」

慰めるように同僚が僕の肩を叩く。

「うん、まあ、これも仕事だしな」

僕の目が遠くなったが、皇民の皆さんの話を聞くのも僕の大事なお勤め……の、はずだ。