■
バッチンッ!
「お前はなんてことをしてくれたんだ!」
怒鳴り声から平手打ちのコンボを決めた父は、すぐさま取り押さえられる。
「お父さん、落ち着いて下さい。娘さんは巻き込まれた可能性が高く」
「翠は人様を殴ったんですよね? なら殴り返されても文句はないでしょうが!」
「しかし、お父さんに殴られるのは……」
わたしが警察署にいるとの一報を受け、両親は仕事着で駆けつけた。
頬を押さえ、隣を見る。女性の警察官に背中を擦られ、母は泣く。
「何かの間違いです。翠は、優しいんです。大人っぽいと皆も言うんです」
「……いったん、ご両親には退室してもらいましょうか」
スーツを着た男性の指示に色々な制服が従い、スエットのわたしだけ残された。
「成瀬さん」
テレビで見た取調室じゃなく、会議室のみたい部屋へ通される。
座って、ジェスチャーされるが席が多い。
交通事故ゼロを目指すポスターを眺めた。ここへ連れて来られても、意外と冷静だ。
「成瀬さん」
もう一度呼ばれ、椅子を引く。四角く囲む席の中で、男性から一番離れたところへ座る。
「大丈夫ですか?」
なにが? と聞き返す前に、男性は自分の頬をつつく。
「……あぁ、そっか。大丈夫です」
「ご両親の様子をみて、胸が痛みませんか? あまり心配をかけては駄目ですよ」
実は冷静というより、思考が冷え切っているのかも。父の怒りも母の悲しみにも、現実感がなくて。
書類をめくる音が耳につく。
「被害女性の証言によれば、成瀬さんではなく逸木要に殴られたーー逸木、知ってるな?」
あからさまに口調が変わる。想定内の質問に、こう返す。
「バイト先の店長ですけど」
「庇っても無駄だぞ?」
「なんで、わたしが逸木さんを?」
言いながら、悲しそうな表情を作る。わざと。
「成瀬さんは逸木と個人的な交流があったかい?」
「カレー、食べに行きました」
「そういう意味で聞いてないのは分かってるだろ?」
未成年に対して言葉は選んでも、人を疑うのは躊躇しない。
「君、いい学校に通ってるね。捜査協力は市民の義務、先生に教わらなかった? で、逸木はどこ?」
書類を近くまで寄せ、かけていた眼鏡を頭の上に乗せた。
「家に来た刑事さんにも言いましたが、本当に知りません。美和子さんを殴ったのはわたしですから」
「なら、どうやって殴った?」
「暗かったのでよく覚えてません」
「殴った理由は?」
「言いたくありません」
「ち、黙秘権は教えてんのかよ」
ここまでシミュレーション通り、答えられる。
「……はあ、嘘のつき方、逸木に教わったみたいだな。だけど」
言いかけた途中で、女性が入室してきた。
「ドアは明けっ放しにしておきます。班長、密室で異性と2人っきりにならないで下さいとお伝えしてますが?」
「いやあ、俺も最初はさ、コンプラ遵守でやろうと思ったんだぞ。意外と手強くてさ」
腰を浮かせた姿勢で髪を撫でつける。こちらへ突き付けようとしていた用紙が行き場を無くして、後手に回す。
軽く会釈したのち、女性がそれを回収。
「成瀬さん、こちらをご覧ください」
改めて、わたしの前へ資料を並べた。
「これ……」
「被害者の身体です。痣が全身にできてますよね? 新しいものから、こうした古いものまで」
洋服の下は痣がない面積のほうが少ない。
「あなたは常習的に暴行していたのですか? これらは同一人物によって付けられたものです」
ドクロの指輪の写真が美和子さんの身体の上へ被せられた。
「痣の形状を調べたところ、指輪をはめた手で殴られていたと判明したんです」
「……う、そ、でしょ? そんな」
キョロキョロ見回す。ここは警察署。
「病院からの通報で今回の事件は明るみとなりましたが、被害者は暴力にずっと怯えていたんです」
女は女を子ども扱いしない。屈み、視線を合わせてくる。
「翠さん、同じ女性として感じるもの、ありますよね?」
「……ちょっと信じられない、です。あんなに美人でお金持ちなのに? 逃げたらいいんじゃ?」
バッチンッ!
「お前はなんてことをしてくれたんだ!」
怒鳴り声から平手打ちのコンボを決めた父は、すぐさま取り押さえられる。
「お父さん、落ち着いて下さい。娘さんは巻き込まれた可能性が高く」
「翠は人様を殴ったんですよね? なら殴り返されても文句はないでしょうが!」
「しかし、お父さんに殴られるのは……」
わたしが警察署にいるとの一報を受け、両親は仕事着で駆けつけた。
頬を押さえ、隣を見る。女性の警察官に背中を擦られ、母は泣く。
「何かの間違いです。翠は、優しいんです。大人っぽいと皆も言うんです」
「……いったん、ご両親には退室してもらいましょうか」
スーツを着た男性の指示に色々な制服が従い、スエットのわたしだけ残された。
「成瀬さん」
テレビで見た取調室じゃなく、会議室のみたい部屋へ通される。
座って、ジェスチャーされるが席が多い。
交通事故ゼロを目指すポスターを眺めた。ここへ連れて来られても、意外と冷静だ。
「成瀬さん」
もう一度呼ばれ、椅子を引く。四角く囲む席の中で、男性から一番離れたところへ座る。
「大丈夫ですか?」
なにが? と聞き返す前に、男性は自分の頬をつつく。
「……あぁ、そっか。大丈夫です」
「ご両親の様子をみて、胸が痛みませんか? あまり心配をかけては駄目ですよ」
実は冷静というより、思考が冷え切っているのかも。父の怒りも母の悲しみにも、現実感がなくて。
書類をめくる音が耳につく。
「被害女性の証言によれば、成瀬さんではなく逸木要に殴られたーー逸木、知ってるな?」
あからさまに口調が変わる。想定内の質問に、こう返す。
「バイト先の店長ですけど」
「庇っても無駄だぞ?」
「なんで、わたしが逸木さんを?」
言いながら、悲しそうな表情を作る。わざと。
「成瀬さんは逸木と個人的な交流があったかい?」
「カレー、食べに行きました」
「そういう意味で聞いてないのは分かってるだろ?」
未成年に対して言葉は選んでも、人を疑うのは躊躇しない。
「君、いい学校に通ってるね。捜査協力は市民の義務、先生に教わらなかった? で、逸木はどこ?」
書類を近くまで寄せ、かけていた眼鏡を頭の上に乗せた。
「家に来た刑事さんにも言いましたが、本当に知りません。美和子さんを殴ったのはわたしですから」
「なら、どうやって殴った?」
「暗かったのでよく覚えてません」
「殴った理由は?」
「言いたくありません」
「ち、黙秘権は教えてんのかよ」
ここまでシミュレーション通り、答えられる。
「……はあ、嘘のつき方、逸木に教わったみたいだな。だけど」
言いかけた途中で、女性が入室してきた。
「ドアは明けっ放しにしておきます。班長、密室で異性と2人っきりにならないで下さいとお伝えしてますが?」
「いやあ、俺も最初はさ、コンプラ遵守でやろうと思ったんだぞ。意外と手強くてさ」
腰を浮かせた姿勢で髪を撫でつける。こちらへ突き付けようとしていた用紙が行き場を無くして、後手に回す。
軽く会釈したのち、女性がそれを回収。
「成瀬さん、こちらをご覧ください」
改めて、わたしの前へ資料を並べた。
「これ……」
「被害者の身体です。痣が全身にできてますよね? 新しいものから、こうした古いものまで」
洋服の下は痣がない面積のほうが少ない。
「あなたは常習的に暴行していたのですか? これらは同一人物によって付けられたものです」
ドクロの指輪の写真が美和子さんの身体の上へ被せられた。
「痣の形状を調べたところ、指輪をはめた手で殴られていたと判明したんです」
「……う、そ、でしょ? そんな」
キョロキョロ見回す。ここは警察署。
「病院からの通報で今回の事件は明るみとなりましたが、被害者は暴力にずっと怯えていたんです」
女は女を子ども扱いしない。屈み、視線を合わせてくる。
「翠さん、同じ女性として感じるもの、ありますよね?」
「……ちょっと信じられない、です。あんなに美人でお金持ちなのに? 逃げたらいいんじゃ?」

