Mint condition

 カレーを食べた後、2日間バイトは休みだった。今日は手ぶらで向かう。
 非常階段の脇に見慣れない車が停まっている。少し離れた位置から様子を探り、誰も乗っていない。近付いて覗き込む。

「あら」

 2階の窓から声が降ってくる。
 首を傾げる女性を見て、自分がどんな顔で見上げているのか察した。

「あなた、翠さん? バイトの」

 コクンッと頷き、俯く。

「やっぱり! 待ってて、えっと、鍵はーー要くん、どこに置いてあります?」

 少ししてドアが開き、長い黒髪の女性が階段を降りてきた。その足元は逸木さんのサンダルだ。

「昨日、一昨日も来てくれたでしょう? 要くん、食あたりを起こしちゃったみたいで」
「……焼肉、ですか?」
「そうなの! ユッケがいけなかったのかしら」

 わたしの前まで来て、両手を合わせる。

「お見舞いのスイーツありがとう! ドアの前にあったの、あなたよね?」

 逸木さんが選びそうもない指輪が、薬指で輝いている。
 美和子さんはもっと毒々しい人だと思っていた、思いたかった。

「申し訳ないけど今日もお休みで。良ければお家まで送るわ」
「いえ、大丈夫です。図書館で勉強します」
「それじゃあ、図書館まで送らせて。スイーツのお礼もしたいから、行く前にランチに付き合ってくれると嬉しいんだけど?」

 カールしたまつ毛が瞬く。そうしてお願いすれば何でも叶ってきたお姫様みたい。

「いや、ほんとに」
「ちなみに私がオーナー。業務命令って魔法を使えるの」

 ーーそして、魔女でもある。

「よし! 決まり」

 合わせたままの手をパンッと叩き、会話を打ち切ってしまう。

「靴、履き替えてくるわね」

 スカートの裾を上げ、サンダルがよく確認できるようにする。

「私が美和子。要くんから聞いてる?」

 美和子さんにつられ、視線を2階へ向ける。
 すると、こちらを窺う逸木さんがいた。
 囚われたお姫様みたいに。