美少女の願い事

 七月に学童に来ると、七夕の飾りがあった。
 ささの葉に、短冊。 
 他の子たちが、それぞれ、願い事を書いている。 
 「サッカー選手になれますように」
 「魔法少女になれますように」
 「芸能人に会えますように」
 学童の指導員の女の人が、私に声をかけてきた。
 「ももちゃんも書くー?願い事」
 「あ、いや、私は......」
 私の体操服の袋の中には、くまのすけというピンクのくまのぬいぐるみも入っている。
 くまのすけに関することが私の願いだ。
 言えるわけない。書けるわけない。
 学校では袋に入れっぱなしの、くまのすけを出してやると、野宮さんという女子が近づいてきた。
 「星野もも、きらーい!」
 星野もも。私のフルネームを、君に呼ばれたくない。
 私の睨みに気づかず、野宮さんは、つづける。
 「ももちゃんって、かわいいから、アイドルになりたいんじゃないの?」
 「別に、アイドルに、なりたいわけじゃない」
 冷たく、私は返した。かなり冷ためだ。
 しかし野宮さんは、不思議そうに言った。
 「でも、そうやって、否定するってことは、本当は、アイドルになりたいんだよね?うらやましいんだよね?アイドルが」
 え?何?どういうこと?
 分からない......。
 私がパニックになっている間に、野宮さんは、くまのすけを、少し見て、怖いくらいの目で、私を見た。
 「こういう、かわいいものが好きだから、アイドルになりたいんでしょ?」
 違う!絶対、違う!
 違うのに、なぜか、言えない。
 のどのあたりが痛い。
 無理だ。
 気がつくと、私は、くまのすけを抱えて、学童を飛び出していた。
  走っていた。
 運動が苦手な私が、なぜか、必死に走っていた。
 疲れてきて、私は適当な歩道で、しゃがみこんだ。 
 だれか、追いかけてきた。
 指導員の女の人でも、野宮さんでもなかった。
 同じ学童の、七川くんだった。
 七川くんは、息を荒くしていた。 
 「あのっ!星野さん!学童のやつらに、バレずに願い事、書こう!」
 それは、ひどく、いい誘いに見えた。
 「......どうやって?」
 私は、訊ねていた。

 七川くんは、角を曲がったところにある、見つけにくい図書館まで案内してくれた。
 「学童のやつらは、ケンカや、いじめに夢中だから、だれも、ここには来られないよ」
 七川くんが、そう説明した。
 「そうなんだ」
 私は、うなずいた。
 確かに学童の子たちは、いじめなどに夢中だから、図書館には来ない気がした。 
 図書館には、七夕の飾りがあった。ささの葉と、短冊だ。 
 いろんな色の短冊がある。
 私は、くまのすけと同じピンク色を選び、黒の消えないマジックで書いた。
 「くまのすけと、ずっと一緒に、いられますように 星野もも」
 「うん。いいね」
 七川くんが、笑った。
 なぜか、うれしいと思ってしまった。
 そして、私の願い事は、叶う。 
 天の川が叶えてくれる。そんな予感がした。