年が明けた。
玄関先。扉の前に経つのは軍服姿の千景だ。惚れ惚れするほど美しい。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
紗月が微笑むと千景は小さくうなずいて扉を開けて家を出て行った。
千景が軍に復帰して一月。事務仕事が中心らしいが、それでも「番に選ばれなかった」元軍神が抜け殻から復帰したことで、周囲は騒ぎになっているらしい。
もともと噂にはなっていたものの、本当に復帰するとは思わなかったのだろう。
獣人にとって、番を失うとはそれほど致命的なのだ。
千景が回復した理由だが、景正とも話し合いの上、たまたまあった薬があった、ということになり紗月のことは伏せられている。これは景正の案だ。千景の番が人工的に作られた疑いがあるからだろう。紗月としても、まだ治験段階にもいっていない父の薬が騒がれるのは時期尚早だと思ったので、特に異論はなかった。
千景は事務仕事を中心に軽く身体を慣らしている最中だという。
「さて、と」
千景を見送った紗月は、ふうと息を吐くと自室に戻った。さっそく文机へと向かう。
研究の成果をのちのちのために、わかりやすくまとめておくのだ。
――いつまで千景の妻でいられるかわからないから。
千景は回復した。この後も薬は飲み続けなければならないけれど、白峰家お抱えの薬師が調合できる。つまり、紗月の役目はほぼ終わったも同然なのだ。
こんなに早く回復するとは、景正だって思っていなかったに違いない。
景正は紗月の研究環境を整えるために動き出してくれている。
それはつまり、もう紗月が千景の妻でいる必要がない、ということ。
いつの間にか筆が止まってしまっていた。紗月はふうと息を吐き出す。
最近、どうも千景のことばかり考えてしまう。自分は契約上の妻でしかないのに。そしてもう用済みに近いのに。
気分転換に庭にでも出て外の空気に当たろう。そう思って廊下に出ると、女中頭がこちらに向かってくるところだった。
「あ。若奥様。ちょうどよいところに」
「どうしたの?」
「坊ちゃまが大事な忘れ物をしたのですが、誰が忘れ物を届けにいくかで揉めそうなので、よければ若奥様に行っていただけないかと」
女中頭が申し訳なさそうに言う。
「わかったわ」
軍の本部までは少し距離があるとはいえ、途中には若い娘好みの店もある。仕事の息抜きにはちょうどいいし、なにより軍本部はかっこいい男性がたくさんいると若い娘には人気なのだろう。
なんとなく行き詰まっていたところなので、ちょうどいい。
紗月は千景の忘れ物である書類と差し入れを持って、散歩がてら軍本部へ行くことにした。
玄関先。扉の前に経つのは軍服姿の千景だ。惚れ惚れするほど美しい。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
紗月が微笑むと千景は小さくうなずいて扉を開けて家を出て行った。
千景が軍に復帰して一月。事務仕事が中心らしいが、それでも「番に選ばれなかった」元軍神が抜け殻から復帰したことで、周囲は騒ぎになっているらしい。
もともと噂にはなっていたものの、本当に復帰するとは思わなかったのだろう。
獣人にとって、番を失うとはそれほど致命的なのだ。
千景が回復した理由だが、景正とも話し合いの上、たまたまあった薬があった、ということになり紗月のことは伏せられている。これは景正の案だ。千景の番が人工的に作られた疑いがあるからだろう。紗月としても、まだ治験段階にもいっていない父の薬が騒がれるのは時期尚早だと思ったので、特に異論はなかった。
千景は事務仕事を中心に軽く身体を慣らしている最中だという。
「さて、と」
千景を見送った紗月は、ふうと息を吐くと自室に戻った。さっそく文机へと向かう。
研究の成果をのちのちのために、わかりやすくまとめておくのだ。
――いつまで千景の妻でいられるかわからないから。
千景は回復した。この後も薬は飲み続けなければならないけれど、白峰家お抱えの薬師が調合できる。つまり、紗月の役目はほぼ終わったも同然なのだ。
こんなに早く回復するとは、景正だって思っていなかったに違いない。
景正は紗月の研究環境を整えるために動き出してくれている。
それはつまり、もう紗月が千景の妻でいる必要がない、ということ。
いつの間にか筆が止まってしまっていた。紗月はふうと息を吐き出す。
最近、どうも千景のことばかり考えてしまう。自分は契約上の妻でしかないのに。そしてもう用済みに近いのに。
気分転換に庭にでも出て外の空気に当たろう。そう思って廊下に出ると、女中頭がこちらに向かってくるところだった。
「あ。若奥様。ちょうどよいところに」
「どうしたの?」
「坊ちゃまが大事な忘れ物をしたのですが、誰が忘れ物を届けにいくかで揉めそうなので、よければ若奥様に行っていただけないかと」
女中頭が申し訳なさそうに言う。
「わかったわ」
軍の本部までは少し距離があるとはいえ、途中には若い娘好みの店もある。仕事の息抜きにはちょうどいいし、なにより軍本部はかっこいい男性がたくさんいると若い娘には人気なのだろう。
なんとなく行き詰まっていたところなので、ちょうどいい。
紗月は千景の忘れ物である書類と差し入れを持って、散歩がてら軍本部へ行くことにした。
