そういえば、こうして帝都の街を歩くのは紗月も久しぶりだな、と思う。
父が亡くなってからは、意図的に華やかな場所は避けていた。結婚してからは、千景にかかりきりで外に出ようだなんて思わなかった。
夫人が用意してくれた水色に大きく花が描かれた銘仙は、華やかで着ると気分が明るくなる。隣を歩く千景は紺色の着流しだ。どんな格好をしても様になるのがうらやましい。
「どうですか。久しぶりの街は」
この辺りは昔ながらの老舗が並んでいる。紗月が着ているこの着物を購入したのもこの通りに並ぶ呉服店だという。
「いいものだ。紗月。行きたいところはあるか?」
「いえ。特には。千景様こそどこか行きたいところはないんですか?」
「俺はもともと人が多いところは好きじゃないからな」
そういう千景は、街を歩く若い女性の視線を集めている。そういった視線がわずらわしいのかもしれない。でも。
「だったら、どうしてここに?」
出かける練習だったら、それこそ軍本部までの往復でも特に問題なかったと思うのだけれど。
「それは……」
千景は言いよどむ。
「この通りにおいしい甘味屋があると母が言っていた」
なるほど、と納得しかけてから、千景が甘味にあまり興味がなかったことに気づく。嫌いなわけではないようだが、進んで食べたいほどでもないようだ。
(もしかして、私のために? とか)
そこまで思って紗月は小さく首を振る。そこまで思い上がっては駄目だ。だって、紗月は彼の番ではないのだから。
おそらく、千景の番が人工的に錯覚させられたものだったとしても、彼が再び番を定めることはないだろう。番を定めるのに獣核は関係ないからだ。獣人が番を定めるのは一生に一人。
夫人がおすすめらしい甘味屋に入る。紗月は迷いに迷って、名物だというあんみつをいただいた。千景はみたらし団子を選ぶ。
お団子を食べる姿すら優雅というのは、どういうことだろう。
紗月は正面で団子をかじる千景の姿を見ながら思う。どうやらそのせいで手元がお留守になっていたらしい。
「どうした? 団子も食べたいのか?」
「え?」
ふにゅ、と紗月の口に串刺しの団子の先頭が押しつけられる。――千景だ。
反射的に紗月はその団子にかじりついてしまった。だんごが大きいので一つまるごとは無理だ。半分ほどでかみきる。
「うまいだろう?」
咀嚼しながら紗月はこくりとうなずいた。確かにおいしい。その様子を見て、千景が目を細める。
「また来てもいいな」
そう言いながら、千景は手に持った団子をパクリと口に入れた。先ほど紗月にわけてくれた団子だ。
「!」
彼に取って深い意味はないのかもしれない。でも、無性に恥ずかしかった。
「どうした?」
思わず赤くなってうつむく紗月に、千景が尋ねてくる。
「何でもありません」
紗月は慌ててあんみつを口にいれた。
甘味屋を出て街を歩く。紗月に着物を誂えるのもいいな、などと千景が高級店に入ろうとするものだから、非常に焦った。夫人にもらった着物は十分な数がある。そう言うと、千景は「今日のところは」と言って引いてくれた。ほっとする。
「紗月は欲がないな」
「いえ。十分すぎるものをいただいていますから」
二人で街を歩くだけでも、紗月は十分に楽しかった。
のだけれど。
父が亡くなってからは、意図的に華やかな場所は避けていた。結婚してからは、千景にかかりきりで外に出ようだなんて思わなかった。
夫人が用意してくれた水色に大きく花が描かれた銘仙は、華やかで着ると気分が明るくなる。隣を歩く千景は紺色の着流しだ。どんな格好をしても様になるのがうらやましい。
「どうですか。久しぶりの街は」
この辺りは昔ながらの老舗が並んでいる。紗月が着ているこの着物を購入したのもこの通りに並ぶ呉服店だという。
「いいものだ。紗月。行きたいところはあるか?」
「いえ。特には。千景様こそどこか行きたいところはないんですか?」
「俺はもともと人が多いところは好きじゃないからな」
そういう千景は、街を歩く若い女性の視線を集めている。そういった視線がわずらわしいのかもしれない。でも。
「だったら、どうしてここに?」
出かける練習だったら、それこそ軍本部までの往復でも特に問題なかったと思うのだけれど。
「それは……」
千景は言いよどむ。
「この通りにおいしい甘味屋があると母が言っていた」
なるほど、と納得しかけてから、千景が甘味にあまり興味がなかったことに気づく。嫌いなわけではないようだが、進んで食べたいほどでもないようだ。
(もしかして、私のために? とか)
そこまで思って紗月は小さく首を振る。そこまで思い上がっては駄目だ。だって、紗月は彼の番ではないのだから。
おそらく、千景の番が人工的に錯覚させられたものだったとしても、彼が再び番を定めることはないだろう。番を定めるのに獣核は関係ないからだ。獣人が番を定めるのは一生に一人。
夫人がおすすめらしい甘味屋に入る。紗月は迷いに迷って、名物だというあんみつをいただいた。千景はみたらし団子を選ぶ。
お団子を食べる姿すら優雅というのは、どういうことだろう。
紗月は正面で団子をかじる千景の姿を見ながら思う。どうやらそのせいで手元がお留守になっていたらしい。
「どうした? 団子も食べたいのか?」
「え?」
ふにゅ、と紗月の口に串刺しの団子の先頭が押しつけられる。――千景だ。
反射的に紗月はその団子にかじりついてしまった。だんごが大きいので一つまるごとは無理だ。半分ほどでかみきる。
「うまいだろう?」
咀嚼しながら紗月はこくりとうなずいた。確かにおいしい。その様子を見て、千景が目を細める。
「また来てもいいな」
そう言いながら、千景は手に持った団子をパクリと口に入れた。先ほど紗月にわけてくれた団子だ。
「!」
彼に取って深い意味はないのかもしれない。でも、無性に恥ずかしかった。
「どうした?」
思わず赤くなってうつむく紗月に、千景が尋ねてくる。
「何でもありません」
紗月は慌ててあんみつを口にいれた。
甘味屋を出て街を歩く。紗月に着物を誂えるのもいいな、などと千景が高級店に入ろうとするものだから、非常に焦った。夫人にもらった着物は十分な数がある。そう言うと、千景は「今日のところは」と言って引いてくれた。ほっとする。
「紗月は欲がないな」
「いえ。十分すぎるものをいただいていますから」
二人で街を歩くだけでも、紗月は十分に楽しかった。
のだけれど。
