紗月が白峰家に嫁いで半年が経った。冬が近づき空気が冷たくなりつつある。
庭先で、千景が竹刀を振り下ろしている。びゅんと鋭く風を切る音がする。
紗月は縁側に座りながら、汗を流す千景の姿を感慨深い気持ちで眺めていた。
半年を経て、千景は想像以上の回復を見せていた。驚いたのは、心拍数も元に戻りつつあること。
薬は飲み続けないといけないが、結婚当初の彼を思えば信じられない成果だろう。
やはり、理由が理由だったからなのだろうか。年明けからは軍に復帰する話も出ている。無理のない内勤から始めることになっているらしい。
その話が来てから、毎日のように千景はこうして体力作りをしている。
見た目はわからないが、やはりこの抜け殻の時期に大分筋肉が落ちてしまったらしい。
(綺麗な人よね……)
ただの素振りでも非常に絵になるのだ。
紗月が千景の素振りを見ているのには理由がある。以前、千景が無理をしすぎて倒れてしまったことがあるからだ。
以前と同じ気持ちで少しやりすぎてしまったらしい。なので、彼が無理をしないように見張る。それが紗月の役目になっている。
素振りをやめた千景が、ふうと息を吐き出す。
「お疲れ様です」
紗月は縁側からぴょんと庭に飛び降りると、持っていた手ぬぐいを千景に渡す。
「ありがとう。紗月」
彼は小さく微笑んだ。最近こうして千景はよく紗月に笑ってくれる。まだ表情が凍り付いていることも多い千景だが、夫人曰く「もともと愛想のない子」だったので、あまり違和感はないらしい。
どきり、と紗月の心臓が跳ねた。それを隠すように紗月は笑う。
「いえ。これもお役目ですから」
「……」
千景は無言で汗を拭き始める。
最近どうもよくない。千景の側にいると心がざわつく。
これは契約結婚。千景の回復状況によっては、すぐにでも離縁をすることになるだろう。
紗月としては研究成果が得られて幸せ、のはずなのに。
「紗月」
思わず胸の前で手を握っていると、急に千景に名前を呼ばれて紗月は驚いた。慌てて彼の方に視線を向ける。
「何でしょうか」
「軍に出かける訓練が必要だと父が言っていた。長い間屋敷の外に出ていなかったからな」
「はあ」
確かに景正の言う通りかもしれない。
「だから午後は街に出かけようと思う。紗月も付き合ってほしい」
突然の誘いに紗月は目を瞬かせた。
「だめだろうか?」
特に表情が変わっていないのに、どこか悲しげに見えたのは何故だろう。紗月は慌てて首を振った。
「とんでもありません。お付き合いいたします!」
紗月がそう力強く答えると、千景が嬉しそうに笑った。
庭先で、千景が竹刀を振り下ろしている。びゅんと鋭く風を切る音がする。
紗月は縁側に座りながら、汗を流す千景の姿を感慨深い気持ちで眺めていた。
半年を経て、千景は想像以上の回復を見せていた。驚いたのは、心拍数も元に戻りつつあること。
薬は飲み続けないといけないが、結婚当初の彼を思えば信じられない成果だろう。
やはり、理由が理由だったからなのだろうか。年明けからは軍に復帰する話も出ている。無理のない内勤から始めることになっているらしい。
その話が来てから、毎日のように千景はこうして体力作りをしている。
見た目はわからないが、やはりこの抜け殻の時期に大分筋肉が落ちてしまったらしい。
(綺麗な人よね……)
ただの素振りでも非常に絵になるのだ。
紗月が千景の素振りを見ているのには理由がある。以前、千景が無理をしすぎて倒れてしまったことがあるからだ。
以前と同じ気持ちで少しやりすぎてしまったらしい。なので、彼が無理をしないように見張る。それが紗月の役目になっている。
素振りをやめた千景が、ふうと息を吐き出す。
「お疲れ様です」
紗月は縁側からぴょんと庭に飛び降りると、持っていた手ぬぐいを千景に渡す。
「ありがとう。紗月」
彼は小さく微笑んだ。最近こうして千景はよく紗月に笑ってくれる。まだ表情が凍り付いていることも多い千景だが、夫人曰く「もともと愛想のない子」だったので、あまり違和感はないらしい。
どきり、と紗月の心臓が跳ねた。それを隠すように紗月は笑う。
「いえ。これもお役目ですから」
「……」
千景は無言で汗を拭き始める。
最近どうもよくない。千景の側にいると心がざわつく。
これは契約結婚。千景の回復状況によっては、すぐにでも離縁をすることになるだろう。
紗月としては研究成果が得られて幸せ、のはずなのに。
「紗月」
思わず胸の前で手を握っていると、急に千景に名前を呼ばれて紗月は驚いた。慌てて彼の方に視線を向ける。
「何でしょうか」
「軍に出かける訓練が必要だと父が言っていた。長い間屋敷の外に出ていなかったからな」
「はあ」
確かに景正の言う通りかもしれない。
「だから午後は街に出かけようと思う。紗月も付き合ってほしい」
突然の誘いに紗月は目を瞬かせた。
「だめだろうか?」
特に表情が変わっていないのに、どこか悲しげに見えたのは何故だろう。紗月は慌てて首を振った。
「とんでもありません。お付き合いいたします!」
紗月がそう力強く答えると、千景が嬉しそうに笑った。
