亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「これはこれは、久世宮様じきじきに――ようこそお越しくださいました。手前どもの社は、悪縁良縁ともに帝都でも指折りの実績を」
 父の声が遠くから聞こえてくる。
 千歳が立ち尽くしたままでいると、拝殿に入ってくる青年の姿が見えた。
 軍服に近い仕立ての衣服をまとった、若い男だ。眼光が鋭く、目の下に薄く疲れの色が出ている。歩き方には隙がなく、まとう空気は張り詰めている。
 午後訪れると聞いていた久世宮暁臣だろう。皇家の出身で、独立して宮家を立てたのが五年前のことだ。
「当社自慢の結び手を、ぜひご紹介させてください。良縁のことでしたら、この娘に勝る者はおりません」
 父が手で示すと、小春が華やかに微笑みながら頭を下げた。
「小春と申します。良縁でしたら、なんなりとお申し付けくださいませ」
「結ぶ娘に用はない。必要なのは、縁を切る娘だ」
 短く言い切った声に、拝殿の空気が凍る。
「宮様、裁ち手は不吉な力にございます。良縁のことなら、どうかこちらの小春を」
「必要なのは、縁を切る娘だと言っただろう。何度も言わせるな」
 暁臣の視線が動き、拝殿の様子をうかがっていた千歳の方へまっすぐ向けられた。