亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 彼女は目を瞬かせたが、何も聞こえなかったかのようにうつむいた。それだけでも、今は十分だ。
「……あとでお父様に叱ってもらうから。本当、何回言っても懲りないのね」
 頭を下げて、小春と娘を見送る。父にまた叱られるが、それでも言うべきことは言わねばならないと思う。
「――千歳!」
 客人達が帰ったかと思うと、父が事務室に飛び込んできた。彼の顔は怒りで真っ赤になっている。
「また余計なことを言ったようだな! 自分が不吉な力しか持たないからと言って、小春を妬むような真似をするな。まったく――お前のような落ちこぼれを、置いてやるだけありがたいと思え」
 父が右手を振り上げる。頬を張られるのだと察した千歳は首をすくめた。
 この家にとって、余計なことを言った自覚はあるが、父達が無理やり縁を繋いでいるのを、放置しておきたくなかった。ここは縁結社なのだから。良縁は強く、望まないのであれば無理には結ばない。そうであってほしい。
「久世宮家の方が、お越しです」
 父の顔つきが一変する。千歳にはふんと鼻を鳴らしておいて、父は客人を出迎えに急ぎ足で去っていった。