亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 千歳が用意できるのは安物の茶葉なのに、彼はそんな風に誉めた。そして、懐から一枚の紙を取り出してちゃぶ台の上に置く。
「新しい契約書だ」
「新しい契約書……ですか?」
 千歳は思わず笑いそうになった。
「俺は、願いを口にするのが下手だ。きちんと形にしないとうまく伝えられない。だから、契約書を作ってきた」
 紙面には、几帳面な字でこう記されていた。
 一つ、千歳が嫌になれば、いつでも去ってよいこと。
 一つ、亡き藤乃の影として扱わないこと。
 一つ、暁臣が話を聞かなかった時は、千歳が怒ってよいこと。
 一つ、千歳が切りたい縁があれば、久世宮家の力を貸すこと。
 文字は几帳面だが、ところどころ墨が滲んでいる。何度も書き損じては、書き直しただろうことがうかがえた。
「随分と、一方的な条件ですね」
「不服か?」
「そんなことはありませんが……前の契約書には、宮様を愛するな、と書いてありました」
「今度のには、それは書いていない――俺は君を、糸原千歳を愛している」
「……私は、まだ同じ言葉を返せません」