これまで、そうやって生きてきた。だが、白い糸に触れた指先は、動かない。
縁を切ることは、できなかった。
夜が明けて自宅に戻った時には、久世宮家から無事に終わったと報告があったようで、父と小春はすでに待ち構えていた。
「よくやった。契約報酬はたっぷりもらってきたんだろうな――」
父が揉み手をしながら金額を口にしかけ、その目が祝儀袋の重みでも量るように、千歳の懐へ動いた。それを、千歳は遮った。
「報酬はお渡ししません」
「何?」
「宮様は、私に報酬を支払うと契約書に書いてくださいました――それに、私はもう、この家の娘であることをやめますから」
千歳は懐から小刀を抜いた。父と妹から自分へ絡みつく黒い糸が、はっきりと見える。長年かけて縒られた、太く歪んだ糸だった。
「お前、正気か。育ててやった恩を忘れたか」
「育ててくださった恩は、感じています。ですが、この糸は切らせていただきます」
「久世宮家から金を引き出すために、お前を後妻に出したようなものだ。その分の見返りは当然だろう」
「そうですね。ですから、私はここを去ります。不吉な娘が去るのが一番いいでしょうから」
縁を切ることは、できなかった。
夜が明けて自宅に戻った時には、久世宮家から無事に終わったと報告があったようで、父と小春はすでに待ち構えていた。
「よくやった。契約報酬はたっぷりもらってきたんだろうな――」
父が揉み手をしながら金額を口にしかけ、その目が祝儀袋の重みでも量るように、千歳の懐へ動いた。それを、千歳は遮った。
「報酬はお渡ししません」
「何?」
「宮様は、私に報酬を支払うと契約書に書いてくださいました――それに、私はもう、この家の娘であることをやめますから」
千歳は懐から小刀を抜いた。父と妹から自分へ絡みつく黒い糸が、はっきりと見える。長年かけて縒られた、太く歪んだ糸だった。
「お前、正気か。育ててやった恩を忘れたか」
「育ててくださった恩は、感じています。ですが、この糸は切らせていただきます」
「久世宮家から金を引き出すために、お前を後妻に出したようなものだ。その分の見返りは当然だろう」
「そうですね。ですから、私はここを去ります。不吉な娘が去るのが一番いいでしょうから」

