亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 暁臣の声には、隠しきれない気遣いがあった。百日前には、この人にこんな風に気遣われるだなんて考えたこともなかった。
「休めば問題ありません」
 立て続けに断ち手としての仕事をしたが、不思議と疲れは感じていなかった。
 握りしめていた指の力が抜ける。藤乃はもう縛られていない。役目は、果たした。
 千歳は暁臣の腕からゆっくりと身を離した。契約は契約だ。ここで曖昧にすれば、これまでの自分の生き方そのものが揺らぐ。縁はいつか切る。それが、千歳の生きてきた作法だった。
「約束通り、最後に私と宮様の縁も切らせていただきます」
 震える手で、小刀を握り直す。白い縁糸に、刃先を近づけた。
「切るな!」
 暁臣の声が、鋭く響いた。
「それは、命令ですか?」
「違う! 願いだ。俺の、願いだ。お前との縁は絶ちたくない」
「契約違反です」
「それなら、新しい契約を結びたい。家のためでも、藤乃を送るためでもない。俺自身の願いとして――双方納得の行く契約を」
 それは、暁臣としては精いっぱいの口説き文句だ。
 縁はいつか切れるもの。こちらから先に切れば、傷つかずに済む。