亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 父がいなくなるのを待って千歳が声をかけると、小春の笑みが一瞬だけ強張ったが、その表情はすぐに柔らかい笑みへと変化する。
「姉様。穢れの残滓を拝殿へ持ち込まないでくださいな」
「あなたは、本当にこの縁を望んでいるのですか?」
 娘は顔を上げず、唇だけを小さく動かした。何かを言おうとして俯いてしまう。
「望まない縁も、結んでしまえばいずれ良縁になるわ」
 小春がそう口にする。娘の代わりに答えたつもりらしい。
「あなたが決めることじゃないでしょう」
「姉様のように、何でも切れば救いになると思う方がおかしいのよ。余計な口は挟まないで。お父様に言いつけるわよ!」
 小春の声が、高くなる。
「望まない縁を結ばせる方が、間違っているわ」
「――間違っているのは、お姉様でしょう。自分が、不吉な縁切りの力しか持たなかったからって、せっかく結んだ良縁を壊すような真似をしないで!」
 小春の声が鋭くなった。客人の前であることもすっかり忘れている。
 これ以上小春を刺激するわけにはいかない。千歳は、娘へ一歩近づき、声を落としてささやいた。
「切りたいと決めた時は、私を訪ねてください」