亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 邪魔をしようとした冬近に接近したのは、暁臣だった。
 左手は負傷しているが、無事な方の右手で、冬近の持つ檜扇をはたき落とす。さらには長い脚が翻り、冬近の身体を蹴り飛ばした。
「ぐっ――」
 地面に転がされた冬近が立ち上がる前に、千歳は小刀を振り上げた。今回は、縁の持ち主を気遣う必要はない。一気に断つ。
「や、やめろ……!」
 すぱっと縁の糸が切り落とされた。
 切り落とされた糸はくるくると舞ったかと思うと、一部は消滅し、一部は冬近の身体に巻き付く。そしてそのまま、彼の身体の中に溶け込むように消えた。
 冬近が、悲鳴を上げてのけぞった。長年かけて注ぎ込んだ歪みが、断たれた拍子に自分へ返ってきたのだ。すさまじい苦痛を味わっているに違いない。
 肩で息をつきながら、千歳も彼の様子を見つめていた。一気に力を放出したので、千歳の方にもダメージが来ている。
 ようやく身体を起こした時は、冬近はぼろぼろになっていた。上質な仕立ての衣も、あちこち破れている。震える足で立ち上がろうとするが、そのままそこに座り込んでしまった。
「くそっ……俺が、負けるはずなど……」
「糸原千歳。役目を果たせ」