亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 目の前で池に落ちたのだ。頭を打つなど、致命的な怪我を負っていない限り、落ちた瞬間に手遅れだと判断できるはずもない。
 ――そう、この男は見捨てたのだ。妹を。
 千歳は追及の手を緩めなかった。胸の奥に浮かんでくるのは熱い炎。これが、怒りの感情であることを認識する。
 今まで、多数の悪縁を切ってきた。中には、目をそむけたくなるようなひどい扱いを受けていた人もいる。
 だが、今、目の前にいる男ほど千歳の怒りをかき立てた者はいなかった。
「魂を、久世宮家の妻として縛りましたか? 藤乃様を通じて、久世宮家を利用するために」
 冬近は答えなかったが、その沈黙こそがすべてを語っていた。
「死後も縛り付けたのですね!」
「ああ、そうさ。藤乃を通じて、この屋敷から霊力を吸い上げていた。藤乃がいなくなったら、霊力を吸い上げる道が使えなくなってしまう」
 千歳は懐から小刀を抜いた。そんな、そんなくだらないことでこの男は藤乃をここに縛り付けたのか。死してもなお。
(……この屋敷にある霊脈を利用していたのね)
 ならば、冬近から屋敷へ伸びる黒い支配の縁――それをまず先に断つ。
「させるか!」