亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「女は、家のために使われるのが役目だ。死者でも妻は妻。それが女の役目だろう」
「藤乃様が遺した文には、『兄上に知られる前に』とありました。その文を、あなたが奪おうとしたのではありませんか?」
 千歳の声に、冬近の動きが止まった。
「――何を、証拠もなく」
 だが、冬近の表情は、その言葉が嘘であることを物語っていた。さらに、手首にまとわりついている黒い糸も。
「では伺います。藤乃様が亡くなった夜、あなたはどこにいらっしゃいましたか? 文を、奪おうとしたのではありませんか?」
 千歳が静かに続けると、冬近は口元に笑みを浮かべて取り繕おうとした。だが、今度はうまく形にならない。
「……文さえ、奪えばよかったのだ。それだけのつもりだった。あれが、俺の手を振り払おうとして、足を滑らせた。池に落ちたのは、俺のせいじゃない」
 千歳は、初めてそこで知った。藤乃が、兄に見捨てられたことを。
「助けは、呼ばなかったのですね」
「助けたところで、もう手遅れだった」
「本当にそうでしたか? すぐに助ければ間に合ったのでは? その後、あなたは何をなさいましたか?」