亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「藤乃との婚姻を、これにて終える。藤乃の願いを……遅きに失したが、確かに受け取った」
 そう宣言する声からは、これまでの硬さが薄れて代わりに静かな覚悟のようなものが滲んでいた。
「――待たれよ」
 千歳が藤乃の手首に繋がっている縁の糸を断ち切ろうとした時、闇の中から冬近の声が響いた。
 庭木の陰から、彼はゆっくりと歩み出てくる。
 儀式結界は本来、暁臣と藤乃、千歳しか内側へ入れない。どうやったのか冬近はその結界の中に入り込んできた。
「妹の存在を、そう簡単に消させてたまるものか」
 冬近が檜扇で地面を打つと、三つの光が地から立ち上る。
「久世宮家の妻としての縛りを、今一度締め直す」
 空気が、一気に重くなった。同時に、外界との境界を閉じるように淡い膜が庭を囲った。
 駆け寄ろうとした警護の足音が、見えない壁に阻まれて止まる。中の者は出られず、外の者も入れない。
「宮様、下がってください」
 千歳が叫んだが、暁臣は動かなかった。かわりに、千歳の方に鋭い目を向ける。
「術を破る! どうすればいい?」
「三か所、光の根元です。でも――」