亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 千歳は湯呑みを両手で包んだ。以前から考えていたことを口にする。本当は、ずっとそうしたいと思っていた。でも、家を出る決心がつかないままずるずるとしていた。
「父と、妹との縁を裁ちます。あの家に絡む黒い糸は、長すぎますから」
「その後は」
「自分の名で、小さな相談所を開くつもりです。縁のことで困った人が、誰にでも来られる場所を」
 そう口にしながら、初めてこの願いを口にした相手が暁臣であることに、千歳は自分でも驚いていた。
「危なくはないのか? 裁ち手一人で。お前を望む者は多いだろう」
「危ないでしょうね。それでも誰かの道具でいるよりは、危なくても自分自身の力で誰かの役に立ちたいんです」
「俺に何ができる?」
 そう問われて千歳は答えに詰まった。彼から、そんな問いを投げかけられるとは思っていなかったから。
 いつからか、この人に話を聞いてほしいと思うようになっていたことに、千歳は今更のように気づいた。
「何も。聞いていただいただけで、十分です」
「それでは、俺の気がすまない」
 珍しく、暁臣が食い下がってくる。
「相談所を開くなら、久世宮の名で口添えをしてもいい」