亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 縁結社での自分の扱いが、頭をよぎった。力だけを求められ、本人の意思は誰にも顧みられない。藤乃の文に綴られていたものと、根はきっと同じだ。
 違うのは、藤乃には最後まで、それを声にする相手がいなかったということだった。
「私にできることは、もう決まっています。藤乃様の願いを、形にすることです」
 千歳は静かに言った。
 暁臣は顔を上げ、まっすぐに千歳を見た。何かを言いかけて、結局は短く頷くだけに留めた。
 
 その夜、月見の間に鈴の音が響いた。
 雨はすでに上がり、庭の木々からしたたる雫の音だけが、静けさに輪郭を与えていた。
 白無垢の影が、いつものように障子の隙間からゆっくりと進み出てくる。
 藤乃が姿を見せたとたん、暁臣の身体がわずかに強張るのを千歳は見た。恐れではなく、きっと後悔の念。
 暁臣は文を取り出し、藤乃の影の前に膝をついた。
「読んだ……何も聞こうとしなくて、すまなかった」
 深く、頭を下げる。間違いを認め、亡き人へ頭を下げる暁臣の背を、千歳は見つめた。
 誰に頼まれたわけでもないのに、この人の力になりたい。
 藤乃が、ゆっくりとこちらを向く。
「届いたのですね」