亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 わたくしが離縁を願えば、あなたも、蘆名の楔からお離れになれます。わたくし自身も、誰かの道具ではなく、一人の人間として選び直すことができます。
 この離縁を、わたくし自身が選び直すための願いとしてお受け取りください。

 文はそこで終わっていた。
 暁臣は、しばらく紙面から目を上げなかった。手の中で、紙の端が小さく震えている。
「……知らなかった。冬近殿が、何か企んでいたなんて」
 千歳は、静かに答えて暁臣の横顔を見た。悔恨と自責が、隠しようもなく滲んでいる。
「恨まれている方が、まだ楽だった。恨まれてもいない。ただ、独りで抱え込んで、独りで死なせた」
 暁臣が、絞り出すように言った。藤乃の死は、池に落ちた事故だと聞いている。見つかった時には、もう息を吹き返すことはなかったと。
「今、それをおっしゃっても仕方ありません」
「わかっている」
 暁臣は文を握りしめたまま、しばらく目を閉じていた。
「わかっているが、言わせてくれ」
 今は黙って聞くべき時だと思ったから、千歳は、黙り込んだ。
(誰かの道具にされる苦しさなら、私も知っているもの)