亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「宮様! 千歳様! 申し訳ございません!」
 二人に差しかけるべき傘をそらしてしまった唯子が詫びの言葉を口にするが、彼女の詫びは、暁臣の耳には届いていなかった。
「無理をするな」
「……ありがとうございます」
 そう返す千歳は弱々しいものだった。
 雨脚がさらに強くなる。暁臣は千歳の身体を支えたまま屋敷の中に入った。
「すぐにお湯を用意します!」
 慌てた様子の唯子が、浴室の方へ走っていく。手を離したとたん、再び千歳の足がふらついた。
「大丈夫です、歩けます……手を、離してくださいませ」
「途中で転んだら困る。あともう少しだ」
 そう返した次の瞬間、暁臣は千歳を抱き上げていた。自分でも、なぜそうしたのかわからないまま。
「――宮様!」
「俺は、最後まで責任を持つ」
 腕の中で、千歳が身体を強張らせる。
「そうおっしゃるのでしたら、お願いします……」
 うつむいてしまった千歳の濡れた髪が暁臣の顎に触れる。雨より冷たい。
 千歳が息をする度、襟元の布にかすかな熱が伝わった。
 距離が、近い。