土間に長腰掛けがいくつか、奥に小上がり。煤けた壁には墨書きの品書きが貼られている。志るこ、蜜豆、雑煮。雨に追われた客が二人、黙って茶をすすっていた。
千歳の濡れた袖から、ぽたりと雫が落ちる。
「奥へどうぞ。ひどい降りでございましたでしょう」
おかみが手拭いを差し出してくれた。暁臣は礼を言って受け取ると、それを、なぜか千歳の髪に載せた。
「……宮様」
「濡れたままでいるな」
言い方は素っ気ないのに、手つきだけは丁寧だった。
「しるこを頼む。二つ」
「御膳と田舎、どちらになさいます」
おかみに問われて、暁臣は千歳を見た。
「どちらがいい」
「……どちらでも」
千歳は反射のようにそう答えた。甘いものを選んだ記憶などない。菓子は小春のもので、千歳の前に置かれたことはなかった。
暁臣は、しばらく黙っていた。それから、もう一度口を開く。
「もう一度聞く。どちらがいい」
息が止まった。
二度たずねるのは、千歳のやり方だ。一度目は促された答え、二度目にしか本当の意思は出ない。ついさっき、この人の前で口にしたばかりの言葉だった。
「……田舎を」
千歳の濡れた袖から、ぽたりと雫が落ちる。
「奥へどうぞ。ひどい降りでございましたでしょう」
おかみが手拭いを差し出してくれた。暁臣は礼を言って受け取ると、それを、なぜか千歳の髪に載せた。
「……宮様」
「濡れたままでいるな」
言い方は素っ気ないのに、手つきだけは丁寧だった。
「しるこを頼む。二つ」
「御膳と田舎、どちらになさいます」
おかみに問われて、暁臣は千歳を見た。
「どちらがいい」
「……どちらでも」
千歳は反射のようにそう答えた。甘いものを選んだ記憶などない。菓子は小春のもので、千歳の前に置かれたことはなかった。
暁臣は、しばらく黙っていた。それから、もう一度口を開く。
「もう一度聞く。どちらがいい」
息が止まった。
二度たずねるのは、千歳のやり方だ。一度目は促された答え、二度目にしか本当の意思は出ない。ついさっき、この人の前で口にしたばかりの言葉だった。
「……田舎を」

