亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 父からすれば、三円程度たいした金額ではない。良縁を求める人は多く、皆、多額の奉納金を納めていく。
 長屋で暮らしていた彼女にとっては、その三円を用意するのが困難だ。父にはきっと、想像もできない世界だろうけれど。
「余計なことは言わなかっただろうな? お前の仕事は縁を裁つことだ」
「はい、お父様」
 千歳は、静かに目を伏せた。余計なことは言わない方がいい。余計なことを言えば、父の話が長くなるだけだというのはよくわかっている。
「今日は昼から小春の客が入っている。お前は裏で大人しくしていろ。そのあとには、大切な客人を迎える予定だ」
「承知しました」
「お前の力は糸原家のものだ。忘れるな」
「……はい」
 千歳は小さく息を吐き、父の脇をすり抜けて奥へと入った。夜が明ける前から、縁切りの仕事をしてきたが、今日の仕事はまだ始まってもいない。
 敷地内を掃き清め、本殿を隅々まで磨き上げる。夜明け前に縁切りの仕事をしても誰かが千歳の仕事を代わってくれるわけではない。