亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 あの時、千歳をたまたま見かけたから声をかけてきただけだったとしたら。どんな悪縁でも、本人も自分の気づかないところで縁が続くことを願っている場合もある。
 二度たずね、二度の声の調子や表情から本当に望んでいるのかどうかを確認する。それから、手首に巻き付いている縁の糸も。
「――では、切ります」
 老女の手を取り、縁の切れ目を探す。思っていたより深く根を張った縁だった。霊力を流しながら糸を探り、切れ目を見つけ出して、刃をひらめかせる。
「終わりました」
「――こちらを、お納めくださいませ」
「たしかに受け取りました」
 彼女が差し出したのは、三円という決まりに乗っ取った礼金だった。この家の中の貧しさ、今まで借金取りに終われていたことを思えば、受け取るのは気が引ける。
 でも、千歳がただで引き受けたと知られれば、同じように願う者が増えてしまう。だから、老女が差し出した礼金を千歳は丁寧な仕草で受け取った。
「縁を切ったとは言うが、証文は残っているのだろう」
「ええ。ですが、先方はあの方にこれ以上構っていることはできなくなります。縁が切れたということですから」