亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 冬近は檜扇を軽く弾きながらも、笑みを絶やさなかった。何かを楽しんでいるような、あるいは自分の内面を隠そうとしているような笑みだった。
「久世宮様も、いい加減になさっては? 妹の死を、いつまでもこんな形で引っ張られるのは、蘆名の家としても看過できません」
「不必要に引っ張っているつもりはない」
 暁臣が短く返す。冬近は閉じた扇の先を口元へ寄せ、小さく笑みを浮かべてみせた。
「では、なぜまだ供養しないのです? ああ、失礼――今は、この裁ち手殿のお考え次第、でしたな」
 冬近の物言いには、妹を悼む響きが薄い。悲しみよりも、苛立ちに近い何かが透けて見えた。
 千歳の視線が、冬近の袖から伸びる黒い糸に留まった。長く、まっすぐに、奥御殿の方角へ伸びている。
(この糸……奥御殿ではなく、その先……池?)
 ――兄上に知られる前に。
 藤乃の記した言葉が、脳裏に蘇る。まさか。
「祓うかどうかは、私が奥方様から話を聞いてから決めます」
 千歳がそう告げると、冬近の笑みがわずかに歪んだ。
「不吉な力を持つ女が、宮家の奥に入り込む。それを懸念するなと?」