亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「そこまでは……申し訳ございません。近くで見ていたわけではありませんので」
「それはそうよね。最後に見たのは、いつ頃かわかるかしら」
「お亡くなりになる、少し前です。あの夜も、何か書いていらっしゃいました」
 唯子は俯き、両手で襷の端をきつく握った。
「宮様には、内緒にしてほしいのです。もし知られたら、私――」
「大丈夫。あなたから聞いたとは言わない」
 それでも唯子の顔から不安は消えなかった。よほど、何かを恐れているのだと千歳は思う。
(この屋敷には、口にできないことが多すぎる)
 誰も彼もが、何かを堪え、何かを隠している。人の秘密を暴くのは気が進まないが、何があったのかを知らねば藤乃を解放することはできない。
 その足で、千歳は暁臣の書斎へ向かった。
 文机に向かっていた暁臣は、千歳の顔を見ただけで、何か厄介な話だと察したようだった。彼の眉間に皺が生まれる。
「お屋敷の霊脈が弱まっているのはお気づきでしょうか?」
「……ああ。屋敷を訪れた陰陽師もそう言っていた。何人もこの屋敷に来たのだが、原因を見つけ出せた者はいない。冬近殿にも見てもらったが、わからんとのことだった」