亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 糸原千歳。「悪縁を裁つ、不吉な娘」と陰口を叩かれながらも、切れないはずの縁を切っているという彼女の評判。
(不吉でも構わない。俺が求めているのは、ここにとどまる藤乃をどうにかすることだけだ)
 清らかなもの、浄化に関する品々なら、屋敷にはもう十分すぎるほどあった。暁臣が依頼をする度に陰陽師達が持ち込んできたから。
 それでも藤乃は救われず、暁臣は何もできずにいる。
 暁臣は、千歳を招くことを決めた。糸原の家の名を告げた時、家令が一瞬だけ嫌な顔をしたのを覚えている。
 ――そうして迎え入れたのが、千歳だった。
 まだ、屋敷に来て一日と経っていない。
 それなのに、暁臣は妙な感覚を持て余していた。命令に動じない彼女の静かな目を思い出す度、落ち着かない気分になる。
 久世宮という名を聞けば、誰でも暁臣の言葉に従う。千歳は違った。
 藤乃の言葉を聞くまで、祓うとは決められない――と。その言葉を聞いた時、胸の奥で動いた感情はなんだろう。
(あれは、苛立ちのはずだ)
 そう自分に言い聞かせても、暁臣自身、その言葉がどこか嘘くさいと感じていた。