(離縁状……どうしてそれが必要なのかはわからないけれど、相手のところに届いていないということね)
誰かが、藤乃の言葉を握りつぶした。そう考える方が、筋が通る。
(……変、なのよね)
普通、死者とわざわざ離縁する必要はない。一度繋がれた縁は形を変える。だが、暁臣は藤乃との離縁が必要だと言った。それに、藤乃も離縁を求めている。
それは、なぜなのだろう。
翌朝、千歳は暁臣を捜して、書斎の前で待ち構えた。
「昨夜、奥方様とお会いしました」
「何か、言われたか」
「離縁状を返して、とだけおっしゃっていました」
暁臣の表情がわずかに動いたが、彼の内面を読み取ることまでは千歳にはできない。
「宮様。奥方様は、生前あなたに離縁を願いましたか?」
「いいや」
短い答えだったが、その瞬間、千歳の耳には何かが軋むような音がした。暁臣自身の縁が立てた、小さな音だ。縁に関することだけは、嘘か本当かある程度わかる。
(嘘ではないけれど、本当でもない……?)
千歳はそれ以上を問わなかった。今はまだ、その時ではない。
「そうですか」
ただ、そう答えて頭を下げた。暁臣は何も言わず、書斎の襖を閉めた。
誰かが、藤乃の言葉を握りつぶした。そう考える方が、筋が通る。
(……変、なのよね)
普通、死者とわざわざ離縁する必要はない。一度繋がれた縁は形を変える。だが、暁臣は藤乃との離縁が必要だと言った。それに、藤乃も離縁を求めている。
それは、なぜなのだろう。
翌朝、千歳は暁臣を捜して、書斎の前で待ち構えた。
「昨夜、奥方様とお会いしました」
「何か、言われたか」
「離縁状を返して、とだけおっしゃっていました」
暁臣の表情がわずかに動いたが、彼の内面を読み取ることまでは千歳にはできない。
「宮様。奥方様は、生前あなたに離縁を願いましたか?」
「いいや」
短い答えだったが、その瞬間、千歳の耳には何かが軋むような音がした。暁臣自身の縁が立てた、小さな音だ。縁に関することだけは、嘘か本当かある程度わかる。
(嘘ではないけれど、本当でもない……?)
千歳はそれ以上を問わなかった。今はまだ、その時ではない。
「そうですか」
ただ、そう答えて頭を下げた。暁臣は何も言わず、書斎の襖を閉めた。

