亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「終わりました」
 糸は解けるというより、崩れるように消えた。彼女は自分の手首を見下ろし、そこに何もないことを何度も確かめてから、ようやく安堵の声を漏らした。
「これで、もう……あの人は、二度と私に近づかないの?」
「切ったのは、あなたを縛っていた縁です。これから先は、あなたの努力次第です」
 答えた千歳は、彼女の震える肩に手を伸ばしたけれど、そこで手を止めた。触れればそれだけで彼女が縋りたくなることを知っていたからだ。
 千歳にできるのは縁を絶つことだけ。そのあとの暮らしまでは背負えない。
「本当に、大丈夫でしょうか。あの人が目を覚ましたら――」
「ここを出る算段は、もうついているのですよね?」
 依頼を受けた時、身を寄せる先は見つけておくようにと話してある。それが、依頼を引き受ける条件だった。
「実家近くの寺に、身を寄せられるようにしました。迎えの者がそろそろ来るはずです」
「でしたら、今のうちに行きましょう」
 酒浸りになった彼女の夫は、幾度も彼女に手をあげた。働くこともなく、彼女が生活を支えて来たそうだ。