亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 千歳はそれをじっと見つめて、わずかに眉を寄せた。白糸は思っていたより、ずっと細く頼りない。結ばれたばかりの縁だからだ。
 暁臣の方は、その糸の他にもう一本、灰色の糸が絡んでいた。細く、けれど確かに実在するその糸は、襖の向こう、渡り廊下を越えて、屋敷の奥へと伸びている。
 奥御殿――亡き奥方の居る場所へ。
「どうした」
 暁臣が眉をひそめる。千歳は、灰色の糸のことはまだ口にしなかった。本当に、この糸が藤乃に繋がっているかどうかはわからない。
(この糸を、辿らなければ)
 小指の先に白糸の重みとも呼べないほど、頼りない感触が残っている。切ろうと思えば、今すぐにでも切れる程度の縁だった。
 それでも、これは確かに結ばれてしまった縁。
 百日の間に、結論を出さねばならない。

 生活に必要な品々を持って戻ってきた千歳にあてがわれた一室は、日当たりのよい南座敷とは違って昼でも薄暗かった。暁臣の千歳に対する感情を示しているかのようだ。
 長押の陰も天井の隅も、部屋の隅から隅まで掃除は行き届いているのに、忘れ去られた気配がする。荷を運んでくれたのは、唯子という名の若い女中だった。