亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

(この人は、相手の心をいつも先に断ち切っているのね)
 その慣れの奥に、疲れのようなものが見え隠れした気がして、千歳は普段より低く静かな声を意識しながら答える。
「承知しました。では最後に、私と宮様の縁も必ず切らせてください」
「……何?」
 暁臣の声に、初めて動揺らしいものが混じった。彼の手が襟元へ伸び、そこで止まる。
「宮様との縁を残したままでは、私の仕事が終わりません」
 千歳の申し出は、暁臣が想定していたどの反応とも違ったようだ。眉間の皺の奥に、戸惑いに似た色が浮かんでいる。
「他には何が必要だ?」
 やがて、絞り出すように暁臣が言った。
「奥御殿を調べる権利、奥方様の遺品を開く権利をいただきます」
「それは構わない」
「それから――宮様が嘘をついたとわかった時は、儀式を一時止める権利を」
「俺が嘘をつくと思っているのか?」
 千歳の言葉に、今度は苛立ったのだろう。彼の声がわずかに尖る。意外とわかりやすい人だ。
「まだ、わかりません。だからこそ、条件に入れさせてください」
 暁臣の口元が歪んだけれど、笑ったのか苦い顔をしたのかは、千歳にも判別がつかなかった。