亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

「お話を伺う前から、縁を切ると決めることはできません。縁を切れば奥方様は祓われますが、奥方様にも事情がおありでしょうから」
 沈黙が座敷に落ちた。暁臣は、値踏みするように千歳を見つめている。
(この方にすり寄るか、礼金を吊り上げると思っていたのか……でなければ、この方に怯えるか)
 千歳は、膝の上で手を組み合わせた。
 彼の妻との縁を切るのであれば、彼の命令に従ってばかりはいられない。千歳には、今まで積み上げてきた千歳なりの縁の切り方がある。
「それに、宮様の命令に従い、必要な手順を踏まずに縁を断ち切れば、余計にこじれることになりかねません」
「わかった。専門家の意見には従おう。それから、最後の条件だ。俺を愛するな」
 暁臣は、そう言葉を継いだ。
 千歳は、内心でため息をついた。この人は、誰もが自分を愛するのを当然だと思っているらしい。愛というものを知らない千歳でさえも。
「お前に求めるのは妻の情ではない。縁を切る腕だけだ」
 千歳が黙っていたら、不服と思ったのかさらに言葉を重ねてくる。
 言われるまでもないのに。愛情を求められて困ることはあっても、求められないことで困ることはない。