亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 ただ、縁を切るためには千歳がこの屋敷の『身内』として過ごさなければならない。そのための求婚だそうだ。
 つまり、あくまでも契約上の関係というわけである。
「お前は久世宮家の後妻となる。俺と藤乃――死んだ妻との縁を断つのが役目だ」
「はい」
「夫婦としてこの家に招くが、夜伽はない。寝所も別だ」
「承知しました」
 千歳は淀みなく答えた。表情も変わらない。その千歳の様子に、相手はほんの少しだけ訝し気な色を浮かべる。
「金目当てか」
「必要な報酬はいただきます。ですが、それだけで来たわけではありません」
 予想していた反応と違うというように、暁臣の目に苛立ちが浮かぶ。今まで、彼の妻という立場を望んだものはたくさんいても、こんな風に彼に対応した人はいなかったようだ。
「役目を終えたら離縁し、相応の金子を渡して屋敷を去ってもらう」
「はい」
「藤乃を祓うために必要な命令には従え」
 今まではよどみなく返していた千歳だったが、その言葉を聞いた瞬間、固まってしまった。それから大きく深呼吸して口を開く。
「その条件だけは、お受けできません」
「なぜだ?」
 暁臣の眉間の皺が、深くなった。