亡き奥方を離縁するため、私は契約妻になりました

 目の前を行く小春に目をやる。彼女のまとう華やかな色合いの着物は、千歳との立場の違いを明確にしているようだ。
 通されたのは、表御殿の座敷だった。
 磨き込まれた広縁の向こうに、手入れの行き届いた庭が見える。座敷そのものは静かすぎて、どこか空々しい。暁臣はここで生活しているはずなのに、人が暮らしているようには思えなかった。
「糸原宗一。娘との話が先だ。別室で待っていろ」
 父は一瞬だけ不満げに眉を寄せたが、目の前の男に逆らってもしかたないと思ったらしく、こちらも小さく頬を膨らませている小春を促して、すぐに座敷を辞した。
 座敷に残ったのは、千歳と暁臣の二人だけになる。
「条件を言う。死んだ妻との縁を切ってくれ。今はまだ悪意は見せていないが、ここから百日を過ぎれば、藤乃は悪霊と化す可能性が高い」
 暁臣は前置きなく始めた。
 彼は三年前に結婚したのだが、二年前に亡くなった妻の藤乃が座敷に姿を見せるのだという。様々な術者を呼んでみたが、結局、糸原家の断ち手に任せるしかないという話になった。