3回目までは何も考えずに「承認」ボタンをタップした。しかし、3人が口にした言葉を思い出して躊躇してしまう。2人の参加者すら稀で、3人ともなれば7年前まで遡るという。では、4人は?4=四(シ)=死だとか、そんな理屈で不吉だとか言い始めるのでは?と、形だけ逡巡し、承認を実行する。今さらだ。今よりも状況が悪化することはない。
―――――はずだった。
最初に気付いたのはヒマ人だった。
>ヒマ人:ねえ、ボクの可愛いオメメが、ボクのキュートなフェイスにちゃんと付いてるならさ、もしかしなくても、参加者が増えてる? ウケるんだけどー
>ミカエル:アタシにも参加者人数が「5」って見えてるわね。これって、織田Nさん含めての人数だから、申請した参加者の人数が4ってこと。疑う余地は全くなく、参加者4は数年に1度、もしかしたら初めてのことなのかも知れない。とりあえず、新しい参加者が正義の使途であることを願うわ。
ミカエルの後に、初めて目にするアカウント名が表示された。その名付けのセンスからして、マーダーサイトの登録者としては少しズレている。それでも、3人も4人も同じことだと判断した。毒を食らわば皿まで、だ。最後まで飲み込むことにした。
>警察官:よし、ここいる参加者全員、殺人教唆の罪で逮捕するぞ!!
え? 殺人教唆って・・・殺人を唆かすってこと?唆されている人は、私ってことになると思うのだけど。相談にのってもらっているだけで、誰にも唆されてはいない。
>ヒマ人:はあっ!?誰も唆してなんかいないけど?ボクは善意で相談を受けているだけだよ?www ったく、何だよー 4人目とかちょっと期待したのに、成りすましのネットオタクかー つまんないわー
>警察官:オレ本物だけど?笑 証明してやれないけど、普通に派出所からログインしているぞ。まさか所長も拾得物の受付をしている後ろで、部下が闇サイトへアクセスしているとか夢にも思ってないだろうなあ。笑
>シリアル:闇サイトでの発言程度が殺人教唆を立証する証拠にはなりません。まず、このサイトは海外のサーバを数回経由しているので、登録者を特定することは不可能です。そもそも、相談にのるために質問をしているだけで、こちらから殺人を勧めるような発言は全くしていませんしね。とはいえ、貴方が警察官であることを疑っている訳ではありません。 お久し振りですね、警察官さん。
シリアルの言葉に目を見開く。3人が雑談をしていた内容を思い出し、麻痺していたはずの感覚が戻ってくる。それは他の参加者も感じていたことのようだった。
>ミカエル:2人は知人、いえ「過去に同じ部屋になったことがある」という挨拶に思えるのだけれど、それはいつ頃の話なの? アタシが知っている範囲であれば、2人以上の参加者がいた部屋は稀で、例外なくそのスレ主は目的を果たしたということなのだけれど。
>ヒマ人:だよねー ボクもそう認識してるよ。だとすれば、2人が? マジで?
>シリアル:そうですね。別に隠す必要もないのでお話ししますが、3ヶ月前に某駅前でストーカーによる殺人事件があったことを御存知ですか?平日の19時過ぎに、まだ人通りが多い駅前で、元交際相手のストーカーが、元交際相手の女性をナイフでメッタ刺しにして殺した、という事件です。あのストーカーが開設していた部屋に私と警察官さんの2人が参加していたのですよ。
>警察官:その通り。本官もあの部屋に参加していたのだ。まあ、他人のことだから詳細は省くが、ストーカー君はその場から逃走したよね。丸1日潜伏して逮捕されなかったんだ。なぜ、こんな狭い日本で、情報網が張り巡らされているのに逮捕されなかったのか?答えは簡単さ、オレが警察の捜査情報を漏洩していたからだよ!笑 まあ、それを知っていれば、オレが警察官だということを認めざるを得ないのだよ。
私は会話を目で追いながら、情報が多くなるに従い逆に理解ができなくなっていく。
3ヶ月前のストーカー殺人事件は連日ワイドショーでも取り上げられていたため、かなり詳しく知っている。それでも、犯人が闇サイトに登録していたという情報は無かった。本当か嘘なのかは分からないが、状況が明らかになると、被害者よりも犯人寄りの意見を口にする人が多くなった。特に、ネットユーザーの8割以上は犯人擁護に傾いていた。私自身も犯人擁護派の1人だった。
>警察官:本官の基本的な行動理念は、単なる興味本位だ。捜査活動に役立てるため、犯人の心理を知りたいだけだ。何が動機になって、何を考えて行動に移すのか?何がトリガーになるのか?善悪の判断はしない。正直なところ、どうでも良い。だから、織田Nさんが出した結論を応援するし、手助けも全力で行う。ただ、最後まで見させて欲しい。
>織田N:ありがとうございます!!頼りにしますので、いろいろと助けて下さい。
私は無意識のうちに、そう返事をしていた。
階下から妹の叫び声が聞こえる。おそらく、いつの間にか妹と両親が帰宅し、遅い晩ご飯の準備が整ったのだ。それを知らせるために、階段の下から呼んでいるのだろう。今日はこれまでにする。有り得ない裏切りを体験し、様々な意見が流れ込んできたため、まだ思考が散らばったままだ。少し整理をする必要がある。
私は正直に晩ご飯で呼ばれていることを説明し、礼を言って今日のところは解散することを告げた。
マーダーサイトをログアウトし、スマホをベッドの上に置いて階段を下りる。そこに不機嫌そうな妹が、親友そっくりな風貌で立っていた。
親友である千里と妹の朱音は、私が親友同士だったということもあり幼い頃からの知り合いだ。朱音は容姿が派手な千里に憧れているため、高校1年生に進学して依頼すっかりギャル系の容姿になっている。
「ああ、もう、呼ぶと喉が痛くなるしさ、ご飯の時間くらい予想して降りておいて欲しいんだけど。千里ちゃんだったら、いちいち言わなくても、ちゃんとできると思うんだよねえ。ああ、千里ちゃんがお姉ちゃんだったら良かったのになあ」
そこまで口にして、私の顔を目にした朱音の表情が一瞬にして青ざめた。
―――――はずだった。
最初に気付いたのはヒマ人だった。
>ヒマ人:ねえ、ボクの可愛いオメメが、ボクのキュートなフェイスにちゃんと付いてるならさ、もしかしなくても、参加者が増えてる? ウケるんだけどー
>ミカエル:アタシにも参加者人数が「5」って見えてるわね。これって、織田Nさん含めての人数だから、申請した参加者の人数が4ってこと。疑う余地は全くなく、参加者4は数年に1度、もしかしたら初めてのことなのかも知れない。とりあえず、新しい参加者が正義の使途であることを願うわ。
ミカエルの後に、初めて目にするアカウント名が表示された。その名付けのセンスからして、マーダーサイトの登録者としては少しズレている。それでも、3人も4人も同じことだと判断した。毒を食らわば皿まで、だ。最後まで飲み込むことにした。
>警察官:よし、ここいる参加者全員、殺人教唆の罪で逮捕するぞ!!
え? 殺人教唆って・・・殺人を唆かすってこと?唆されている人は、私ってことになると思うのだけど。相談にのってもらっているだけで、誰にも唆されてはいない。
>ヒマ人:はあっ!?誰も唆してなんかいないけど?ボクは善意で相談を受けているだけだよ?www ったく、何だよー 4人目とかちょっと期待したのに、成りすましのネットオタクかー つまんないわー
>警察官:オレ本物だけど?笑 証明してやれないけど、普通に派出所からログインしているぞ。まさか所長も拾得物の受付をしている後ろで、部下が闇サイトへアクセスしているとか夢にも思ってないだろうなあ。笑
>シリアル:闇サイトでの発言程度が殺人教唆を立証する証拠にはなりません。まず、このサイトは海外のサーバを数回経由しているので、登録者を特定することは不可能です。そもそも、相談にのるために質問をしているだけで、こちらから殺人を勧めるような発言は全くしていませんしね。とはいえ、貴方が警察官であることを疑っている訳ではありません。 お久し振りですね、警察官さん。
シリアルの言葉に目を見開く。3人が雑談をしていた内容を思い出し、麻痺していたはずの感覚が戻ってくる。それは他の参加者も感じていたことのようだった。
>ミカエル:2人は知人、いえ「過去に同じ部屋になったことがある」という挨拶に思えるのだけれど、それはいつ頃の話なの? アタシが知っている範囲であれば、2人以上の参加者がいた部屋は稀で、例外なくそのスレ主は目的を果たしたということなのだけれど。
>ヒマ人:だよねー ボクもそう認識してるよ。だとすれば、2人が? マジで?
>シリアル:そうですね。別に隠す必要もないのでお話ししますが、3ヶ月前に某駅前でストーカーによる殺人事件があったことを御存知ですか?平日の19時過ぎに、まだ人通りが多い駅前で、元交際相手のストーカーが、元交際相手の女性をナイフでメッタ刺しにして殺した、という事件です。あのストーカーが開設していた部屋に私と警察官さんの2人が参加していたのですよ。
>警察官:その通り。本官もあの部屋に参加していたのだ。まあ、他人のことだから詳細は省くが、ストーカー君はその場から逃走したよね。丸1日潜伏して逮捕されなかったんだ。なぜ、こんな狭い日本で、情報網が張り巡らされているのに逮捕されなかったのか?答えは簡単さ、オレが警察の捜査情報を漏洩していたからだよ!笑 まあ、それを知っていれば、オレが警察官だということを認めざるを得ないのだよ。
私は会話を目で追いながら、情報が多くなるに従い逆に理解ができなくなっていく。
3ヶ月前のストーカー殺人事件は連日ワイドショーでも取り上げられていたため、かなり詳しく知っている。それでも、犯人が闇サイトに登録していたという情報は無かった。本当か嘘なのかは分からないが、状況が明らかになると、被害者よりも犯人寄りの意見を口にする人が多くなった。特に、ネットユーザーの8割以上は犯人擁護に傾いていた。私自身も犯人擁護派の1人だった。
>警察官:本官の基本的な行動理念は、単なる興味本位だ。捜査活動に役立てるため、犯人の心理を知りたいだけだ。何が動機になって、何を考えて行動に移すのか?何がトリガーになるのか?善悪の判断はしない。正直なところ、どうでも良い。だから、織田Nさんが出した結論を応援するし、手助けも全力で行う。ただ、最後まで見させて欲しい。
>織田N:ありがとうございます!!頼りにしますので、いろいろと助けて下さい。
私は無意識のうちに、そう返事をしていた。
階下から妹の叫び声が聞こえる。おそらく、いつの間にか妹と両親が帰宅し、遅い晩ご飯の準備が整ったのだ。それを知らせるために、階段の下から呼んでいるのだろう。今日はこれまでにする。有り得ない裏切りを体験し、様々な意見が流れ込んできたため、まだ思考が散らばったままだ。少し整理をする必要がある。
私は正直に晩ご飯で呼ばれていることを説明し、礼を言って今日のところは解散することを告げた。
マーダーサイトをログアウトし、スマホをベッドの上に置いて階段を下りる。そこに不機嫌そうな妹が、親友そっくりな風貌で立っていた。
親友である千里と妹の朱音は、私が親友同士だったということもあり幼い頃からの知り合いだ。朱音は容姿が派手な千里に憧れているため、高校1年生に進学して依頼すっかりギャル系の容姿になっている。
「ああ、もう、呼ぶと喉が痛くなるしさ、ご飯の時間くらい予想して降りておいて欲しいんだけど。千里ちゃんだったら、いちいち言わなくても、ちゃんとできると思うんだよねえ。ああ、千里ちゃんがお姉ちゃんだったら良かったのになあ」
そこまで口にして、私の顔を目にした朱音の表情が一瞬にして青ざめた。



