「最愛の人」に裏切られたとき、死にますか? それとも、殺しますか?




 ようやく織田Nさんのため、いや自分のために、参加している部屋の主を説得しました。日時、場所も決定したので、100パーセント実行すると確信しています。私も先を急がなくてはならないため少し強引に話を進めてしまいましたが、最終的には本人が決めたことです。

 7年前、私の相方が勤務先の上司と浮気をしていることを知りました。本当に偶然でした。営業車輌が故障しなければ、私は一生知らないままだったと思います。ですが、知ってしまった以上、赦すつもりはありません。人の心は変わるものですから、婚姻関係も永遠の契約だとは思っていません。先に別れ話をして貰えれば、悲しくても納得はしました。ですが、浮気は明確な裏切り行為です。赦すという選択肢はありません。

 そこで、私は相方の勤務先に、匿名で2人が不倫をしている旨を記載したメールを送り付けました。信用される必要はありません。ただ、そういう事が行われている可能性を人事部に提示することに意味があるのです。あとは3日おきに2人が密会している画像を送り付ければ、人事部が対処してくれます。
 最近の企業というものは、コンプライアンスとセクハラ、パワハラなどのハラスメント問題を異常に嫌がります。ですから、証拠の写真を添付したメールの送信、相方の身内としての質問状を送付すれば、多少出世していたとしても簡単に引き摺り落とすことができます。最後に、上司の配偶者宛に不倫の証拠写真を送り付ければ完了です。

 私の目論見通り、上司は勤務先から降格、減俸、勤務停止3ヶ月という懲戒処分を受けました。当然、社内にも通知されるため、とても在籍できる状態ではありません。結果的に自己都合による退社ということになりました。家庭においても配偶者は赦してくれませんでした。当然のことです。退職金とそれまでの貯蓄を慰謝料として支払うことを条件に離婚。親権も奪われてしまいました。
 これらの事は私が手配したものでしたが、2人の関係を知る者は上司と相方しかいないはずだったので、上司の相方への逆恨みは想像を絶しました。こうなると後は簡単です。その逆恨みを晴らす舞台を用意すれば良いだけです。

 私は相方と駅のロータリーで待ち合わせをし、その場所と待ち合わせ時刻を元上司に通知してあげました。そして、警察にも刃物を持った不審者が現れたと通報。充血した目を吊り上げ、怒声とともに相方に襲い掛かる元上司は警察官に現行犯で取り押さえられました。その後、殺人未遂で実刑7年の判決が確定したのです。

 この時の私には覚悟も手段もありませんでしたので、こんな中途半端なところで中断してしまいました。第三者から見れば一区切りと思うかも知れませんが、こんなことでは私の気は収まりません。元上司も相方も、赦すことなどできるはずがありません。




>シリアル:おかえりなさい。

 誰もいないのではないかと思ったが、すぐにシリアルが反応した。いつもであればヒマ人が最初に返事をすることが多いが、珍しいこともあるものだ。

>織田N:休憩中ですか?
>シリアル:そんな感じです。いつもより多くの学生を見掛ける気がします。テスト期間中ですか?
>織田N:そうです。たぶん、3学期制の学校は来週から中間テストだと思います。

 私はそう答えたあと、今日あったことを話した。クソ女が妹を洗脳していたことや、ファーストフード店での些細な仕返しについても詳しく説明した。すると、全て聞き終わったシリアルが、私に一つの提案をしてきた。

>シリアル:間に合いましたね。ちょうど良いタイミングだったと思います。
 これから話すことは提案の形ですが、必要不可欠なこととして受け止めて下さい。それと、当然のことながら他言無用でお願いします。

>ヒマ人:2人でコソコソ話しているけど、何か面白いことでもするの?ボクも仲間に入れて欲しいんだけどー
>織田N:ヒマ人さん、こんにちは。
>シリアル:ヒマ人さん、後で招待しようと思っていましたし、全く問題ありません。大歓迎ですよ。
>ヒマ人:それならいいーけどさ。ボクだけ仲間はずれにしたら泣いちゃうよー

 いつもの軽いテンポでヒマ人が乱入してきたが、シリアルはそれを軽々と受け流す。そして、今の私でさえ反応に困る事案を、淡々とした語りで提示した。

>シリアル:私は別の部屋にも参加しているのですが、その部屋の主が復讐のために相手を殺します。日時は明後日の18時から19時の間になる思います。相手の帰宅時間の関係もあるので明確な時刻は分かりませんが、通常であればその時間帯で間違いありません。場所は相手の自宅から徒歩で15分という駅のロータリー付近です。

>織田N:それを聞いて私はどうすればいいんですか?
>シルアル:是非、リアルな現場を見て頂きたいのです。その為だけに、こうして舞台も用意しました。
 既に織田Nさんは最終段階だと思います。覚悟が決まり、準備が整い、後は実行するだけになっていると、ご自身では考えているはずです。ですが、現場の見学をしていた方が、いざその時になって躊躇することなく刺すことができると思うのです。老婆心ながら、中途半端に終わることを危惧しています。後悔というものは、何年経っても風化することはありませんので。

 殺害現場を見せるためだけに殺人を唆したの?
 人が殺される瞬間を見学しろということ?
 その場所で死ぬことが決っているということ?
 うん、確かに、それは見ておいた方が良いかも知れない。
 襲うタイミング。
 刃物の種類や持ち方、それに身体の位置。
 正面から近寄って腹部を思い切り刺す。突き飛ばして仰向けに転がし、馬乗りになるという展開が一番効率が良いかも知れない。私なら、背後から羽交い絞めにして背中から一突きして、首の動脈を狙う幹事かな。それが確実に仕留められる気がする。

 でも、これらも全てリアルを知らない私の妄想に過ぎない。
 現場を知るためには、最高の提案だ。


>織田N:シリアルさん、ありがとうございます!!