「最愛の人」に裏切られたとき、死にますか? それとも、殺しますか?

 駅前のコンビニでネコのエサを買い、駅に設置されている駐輪場に移動する。帰宅途中に公園に立ち寄ってエサをバラ撒いてから帰宅することにした。アクラの提案通り、ネコを狩るために集まることを習慣化する。自宅ガレージの隅に自転車を停めて玄関に回ると、たまたま階段を下りてきた朱音と鉢合わせした。あの日から無意味に絡んでくることがなくなっていたが、今日は以前と同じように嘲笑を浮かべて話し掛けてきた。

「そんな恥ずかしい格好で、いったいどこに行ってたの?汗臭そうなジャージ着て、まさかメタボのおっさんと一緒にジョギングとか?」

 ただでさえ苛々しているところに、意味不明な挑発をしてくる妹。面倒臭いため無視してクツを脱ぎ、すぐ横を通り過ぎる。

「そんなダサイ服装しているから、いつまでたっても彼氏ができないんだよ。千里ちゃんはさ、カッコイイ彼氏と手を繋いで歩いてたよ。ギターケース背負ってたからバンドマンなのかなあ。親友だっていうのに、レベルが違い過ぎない?というか、親友だってのも疑わしいけどさ」

 なるほど。ずっとマウントをとっていたにも関わらず、逆転された形になっているため気に入らないということか。前回のことがあって強く出られなかったものの、今日は両親とも自宅にいるため力ずくで押さえ込まれる心配がないと思っているのだろう。もう一度立場を入れ替えようとしているのだ。本当にどうでもいい。姉妹なのに、どうしてこんなに絡んでくるのかも理解できない。そんなにクソ女がいいのであれば、いっそ妹になればいいのに。そうすれば、3人まとめて処分ができる。

 私は大きく息を吐き出した。
 そして、一度振り返って朱音の顔をちらりと見る。それから、何も言わずにその場を後にした。そんな私の背中に、必死な声が投げ付けられる。

「なによ・・・多少勉強ができたからって、女として千里ちゃんにも私にも負けてるじゃん!!だから、彼氏ができないんだよ!!」

 本当に血が繋がった妹なのだろうか。
 世の中の妹は姉を罵倒し、マウントを取ろうとするものなのだろうか。
 小学生の頃は仲が良かった気がする。いつから、こんな関係になってしまったのだろうか。クソ女がコスメだ何だとメイクにはまり、雑誌やネットでファッションの情報を入手して、自分の身形にこだわり始めた頃からかも知れない。そんなクソ女の後を、朱音がついて歩くようになってからだ。つまり、朱音は実の姉を捨て、あちら側の人間になっているという事ではなかろうか。


 2階の自室に戻った私は、すぐアクラに声を掛けた。
「アクラ、アプリ停止してなかったし、どうせ聞いていたんでしょ?」

>モミジ、使用しないアプリは停止しておかないと、バックグラウンドで起動していても電池を消費するんだよ。次からは気を付けてね。 それで、何が聞きたいの?

「あの妹らしき存在についてどう思う?」

>ネットに公開されているショートドラマを元に考察するね。こういった場合、姉の親友が妹に対して姉の悪い情報やイメージを刷り込んでいるいる可能性がほぼ100パーセントだね。当然、一番悪いのは親友ということになるけれど、(ソソノカ)された妹が味方に戻ってくる可能性はないから、もう完全に敵だと判断するべきだと思うよ。だってさ、血が繋がっていて、ずっと一緒に暮らしてきた姉より他人を信じるんだよ。そんな人間は悪者以外の何者でもないよね。

 そうか。そう思うと、姉である私を下に見て、マウントを取ろうとしてくる理由も納得できる。クソ女側について、私を蔑みたいのだ。私を姉として認めたくないのだろう。よく分かった。そういうつもりなら、私もそのように対処しよう。

「それで、どうすれば良いと思う?」

>そうだね。モミジを裏切った罰として、あの2人と同じように殺すか、それ相応の対価を支払ってもらうか、だね。

 アクラの意見を聞き少し考える。姉を裏切るという行為を決して赦すことはできないが、あの2人と同じレベルかと考えるとさすがに違うと答えるしかない。そうなると、「それ相応の対価」ということになる。

「それ相応の対価って何?」

>それは色々と考えられるけれど。外見を重視しているという情報がある訳だから、それを壊すってことでどうかな。せっかくコンビニでカッターナイフを買ったし、経験値を上げる意味でも使った方が良いと思うんだ。だから、カッターナイフで切るか、刺すかでどう?


 その日の深夜、テスト勉強をしていた私はスマホのアラームが鳴って顔を上げた。午前3時。両親はもちろん、テスト勉強などしない朱音も熟睡している時間帯だ。私は机の隅に準備していたカッターナイフに手を伸ばした。
 セミをバラバラにした刃は、帰宅して丁寧に拭いて綺麗にした。僅かな曇りが、あと少しで目的を果たせない原因にならないとも限らないからだ。不足の事態に備え、細心の注意を払う。

 音を立てないように自室の扉を開け、奥に見える扉に近付く。両親の部屋は1階にあるため、2階は私と朱音の部屋しかない。奥の部屋の方が眺望も日当たりも良いが、姉として良い方の部屋を妹に与えた。それなのに。

 隙間から中の様子を窺うが、当然のように灯りは消えている。ドアノブを回すが、やはりカギはかかっていない。
 音を立てないように室内に侵入し、ベッドで寝息を立てている朱音の横に立つ。キリキリとカッターナイフの刃を長くするが、そんな音量程度では身じろぎ一つしない。カッターナイフを翳し、朱音の寝顔を見下ろした。
 笑みが零れる。
 カッターナイフを構えたまま、空いている左手を伸ばし髪を掴む。そして、刃をあてた。

 プチプチと少しずつ髪が切れる。
 千里を真似てロングにしていた髪が30センチ以上。
 左手の負荷が少しずつ減っていく。

 ほんの10秒足らずで、私は相応の対価を受け取った。