まだ15時頃だというのに、室内は薄暗くて少しずつ気分が沈んでいく。先ほどまでは思い出さなかったことが、ゆっくりと頭を擡げてくる。
2階にある自分の部屋に向かうために階段を上がっていると、再びポケットの中のスマホが続けざまに震えた。画面には彼氏と親友から、ほぼ同じタイミングでメッセージが届いていた。今この瞬間も一緒にいて、肩を並べてスマホを操作しているに違いない。キスシーンを見られたなど気付きもしないまま、並んで文面を相談しながら書き込んでいるに違いない。肩を寄せ合い、お互いの体温を感じながら、私のことを嘲笑っているのかも知れない。
ああ、気持ち悪い。
まるで、いつもの自分と、新しい自分が入れ替わっていくみたいに。
繭の中で一度ドロドロに溶けて、巨大な蛾に羽化するように。
そのために、頭の中がドロドロになっていく。
自分の感情がコントロールできなくて、心がカタチを失くす。
裏切られた、という養分が注ぎ込まれる。
いつもなら、「自分に何か非があったのかも知れない」と、自虐的に責めるはずなのに、まったくそんな気にはならない。「親友の方が可愛くてスタイルも良いから仕方ない」と、自分に言い聞かせるはずなのに、まったく彼女を持ち上げる気にならない。自分が悪かったと言い訳をして、すべての責任を背負って校舎の屋上からダイブするなど到底できない。
それなら、裏切ったヤツラを赦す?
勝手に理由を後付けして納得する?
そんな慈悲深いことが、誰にできる?
死ぬか、殺すか。2つの選択肢のうち、「死ぬ」という選択だけは絶対にないと断言できる。
それでも、彼氏と親友を同時に失ったことに思いが至ると、目の前が滲んできた。
ドアノブを握り自室に入ると、部屋着にしている中学の体育ジャージに着替える。そして、ベッドに寄り掛かるように座り込んだ。
手にしていたスマホを覗き込むと、彼氏である礼央と親友の千里から、まったく同じタイミングで5件のメッセージが入っていた。まるで示し合わせたかのように、そこで連絡が途絶えている。間違いなく2人は一緒にいる。私の消息よりも大事な何かが、そこにあるとしか思えない。
再び既読スルーをしてアクラが表記したURLをクリックする。
誰かに相談したいというよりも、誰でもいいから聞いて欲しかった。私には相談できる相手が千里しかいない。千里は小学校から同じ、いわゆる幼馴染枠の人間だ。人見知りをする私には、友達と呼べる人はごく少数だ。しかも、高校まで一緒となると千里1人しかいない。千里以外の誰かに、誰かに聞いて欲しかった。何でもいいから、何か意見を聞かせて欲しかった。
スマホの画面が真っ暗になり、真ん中にログインIDとパスワードを入れる窓が表示された。初めてアクセスするため、IDもパスワードも保有していない。そのため、その下に表示されている新規登録をタップする。適当に被らないIDとパスワードを設定し、忘れないように画面をスクショした。
IDとアカウント名は別のようだ。アカウント名は自由で、いつでも変更可能になっている。アカウント名を自虐の意味を込めて「織田N」にした。明智光秀に裏切られた織田信長。最初は信長にしようと思ったけれど、あまりにもアレなので織田に。織田だと可愛くないので、ワンポイントでNを付けてみた。
アカウント名にあまり納得はできていなかったものの、いつでも変更可能であるため先に進むことにする。
TOPへ、の文字をタップしてトップページに移動すると、装飾がまったくない地味なページが表示された。できることは2つだけ。自分の部屋を開設することと、他人の部屋に訪問すること。ページの上部には赤い太文字で注意事項が書かれている。
『当サイトで知り得た情報は、絶対に他言しないで下さい。自己責任になりますので御了承願います』
「自己責任」の意味がどちらにも解釈できて、スマホを持つ手が冷たくなる。それでも、私には先に進むしか道が無い。
ひとまず、やり方を知りたくて他人が作った部屋を適当にタップする。すると、また窓が開いてパスワードを求められた。興味本位で覗くことはできないようになっていて、まず部屋の管理者に申請をしなければならい。そして、申請が承認されるとパスワードを配布され、ようやく参加できるシステムのようだ。面倒臭いが、プライバシーを考えれば信頼できる。しかし、逆に安易に入室できないシステムの必要性に疑問を抱いた。
それなりに本気で意見が聞きたいため、部屋の名前を「最愛の人に裏切られたとき、死ぬべきか、殺すべきか」に決める。「殺す」の単語がエラーで入力できないなどということもなく、すんなりと危険な部屋名が承認される。次に相談内容欄に今日の出来事を記載し、開設ボタンをタップ。後は、参加者希望者の申請を待つのみとなった。
参加希望は意外と早く、開設10分後には最初の申請者が現れた。
2階にある自分の部屋に向かうために階段を上がっていると、再びポケットの中のスマホが続けざまに震えた。画面には彼氏と親友から、ほぼ同じタイミングでメッセージが届いていた。今この瞬間も一緒にいて、肩を並べてスマホを操作しているに違いない。キスシーンを見られたなど気付きもしないまま、並んで文面を相談しながら書き込んでいるに違いない。肩を寄せ合い、お互いの体温を感じながら、私のことを嘲笑っているのかも知れない。
ああ、気持ち悪い。
まるで、いつもの自分と、新しい自分が入れ替わっていくみたいに。
繭の中で一度ドロドロに溶けて、巨大な蛾に羽化するように。
そのために、頭の中がドロドロになっていく。
自分の感情がコントロールできなくて、心がカタチを失くす。
裏切られた、という養分が注ぎ込まれる。
いつもなら、「自分に何か非があったのかも知れない」と、自虐的に責めるはずなのに、まったくそんな気にはならない。「親友の方が可愛くてスタイルも良いから仕方ない」と、自分に言い聞かせるはずなのに、まったく彼女を持ち上げる気にならない。自分が悪かったと言い訳をして、すべての責任を背負って校舎の屋上からダイブするなど到底できない。
それなら、裏切ったヤツラを赦す?
勝手に理由を後付けして納得する?
そんな慈悲深いことが、誰にできる?
死ぬか、殺すか。2つの選択肢のうち、「死ぬ」という選択だけは絶対にないと断言できる。
それでも、彼氏と親友を同時に失ったことに思いが至ると、目の前が滲んできた。
ドアノブを握り自室に入ると、部屋着にしている中学の体育ジャージに着替える。そして、ベッドに寄り掛かるように座り込んだ。
手にしていたスマホを覗き込むと、彼氏である礼央と親友の千里から、まったく同じタイミングで5件のメッセージが入っていた。まるで示し合わせたかのように、そこで連絡が途絶えている。間違いなく2人は一緒にいる。私の消息よりも大事な何かが、そこにあるとしか思えない。
再び既読スルーをしてアクラが表記したURLをクリックする。
誰かに相談したいというよりも、誰でもいいから聞いて欲しかった。私には相談できる相手が千里しかいない。千里は小学校から同じ、いわゆる幼馴染枠の人間だ。人見知りをする私には、友達と呼べる人はごく少数だ。しかも、高校まで一緒となると千里1人しかいない。千里以外の誰かに、誰かに聞いて欲しかった。何でもいいから、何か意見を聞かせて欲しかった。
スマホの画面が真っ暗になり、真ん中にログインIDとパスワードを入れる窓が表示された。初めてアクセスするため、IDもパスワードも保有していない。そのため、その下に表示されている新規登録をタップする。適当に被らないIDとパスワードを設定し、忘れないように画面をスクショした。
IDとアカウント名は別のようだ。アカウント名は自由で、いつでも変更可能になっている。アカウント名を自虐の意味を込めて「織田N」にした。明智光秀に裏切られた織田信長。最初は信長にしようと思ったけれど、あまりにもアレなので織田に。織田だと可愛くないので、ワンポイントでNを付けてみた。
アカウント名にあまり納得はできていなかったものの、いつでも変更可能であるため先に進むことにする。
TOPへ、の文字をタップしてトップページに移動すると、装飾がまったくない地味なページが表示された。できることは2つだけ。自分の部屋を開設することと、他人の部屋に訪問すること。ページの上部には赤い太文字で注意事項が書かれている。
『当サイトで知り得た情報は、絶対に他言しないで下さい。自己責任になりますので御了承願います』
「自己責任」の意味がどちらにも解釈できて、スマホを持つ手が冷たくなる。それでも、私には先に進むしか道が無い。
ひとまず、やり方を知りたくて他人が作った部屋を適当にタップする。すると、また窓が開いてパスワードを求められた。興味本位で覗くことはできないようになっていて、まず部屋の管理者に申請をしなければならい。そして、申請が承認されるとパスワードを配布され、ようやく参加できるシステムのようだ。面倒臭いが、プライバシーを考えれば信頼できる。しかし、逆に安易に入室できないシステムの必要性に疑問を抱いた。
それなりに本気で意見が聞きたいため、部屋の名前を「最愛の人に裏切られたとき、死ぬべきか、殺すべきか」に決める。「殺す」の単語がエラーで入力できないなどということもなく、すんなりと危険な部屋名が承認される。次に相談内容欄に今日の出来事を記載し、開設ボタンをタップ。後は、参加者希望者の申請を待つのみとなった。
参加希望は意外と早く、開設10分後には最初の申請者が現れた。



