「喉が渇いたな」
周囲に散らばるコオロギを見渡して立ち上がる。その場でグッと背伸びをすると、喉がカラカラに渇いていることに気が付いた。一度帰宅すると、そこで落ち着いてしまうことが予想できるため、少し先にあるコンビニに向かうことにした。
ジャージのポケットからスマホを取り出して時刻を確認すると、1128という4桁の数字が並んでいた。どれだけ集中していたのか、家を出てから2時間以上経っている。我ながら、これなら喉が渇いても仕方がないと思う。
「アクラ」
>こんにちは、モミジ。来週から試験週間だけど勉強してる?
「何で試験週間とか知ってるの?」
>他のAIともネットワークで繋がってるからリアルタイムで同期しているんだよ。AIの世界では常識なんだけどね。だから、ネット上の情報なら分からないことなんてないよ。 それで、何か聞きたいことがあるの?
「ああ、そうだった。実はさ、朝から慣れるためにアリとコオロギを潰していたんだけど、これで良いのか分からなくて。どう思う?」
最近は即時対応だったアクラが、今回は珍しく長考している。すぐに返事をされると会話みたいで楽しいが、こうして長時間待たされると真剣に考えてくれているような気がして嬉しくなる。
>・・・(思考中)・・・そうだね。方向性は問題ないと思う。そろそろステップアップするタイミングだし、道具を使うことに慣れた方が良いと思うよ。最終的な目的を果たすためには、「素手」ではかなり無理があるからね。カッターナイフとハンマーどっちがモミジに似合うかな? カッターナイフは指が根元から切れるような大きいものではなく、普通にコンビニとかでも売っている細いタイプね。ハンマーも頭蓋骨が陥没するようなものではなく、片手で振り回せるくらいの軽いものね。
なるほど。道具を使う経験値も重要になる訳だ。個人的にはどちらもでも良いが、少し先に見えているコンビに行くことを考えると、カッターナイフになりそうだ。それに、ハンマーは重くて持ち運びに問題がある。3キロとかあるハンマーを持ち運べる気がしない。カッターナイフの進化形は何になるのだろうか。包丁?それともチェーンソー?
「今からコンビニに行くし、カッターナイフにしようと思う。ホームセンターは徒歩で行くには遠いし、持ち運びも楽だから。それで、どうやって使えばいいの?」
>カッターナイフは切る道具なのだから、普通に切れば良いよ。コオロギであれば手足をバラバラにして、胴体を3分割だよ。小学校で習ったと思うけど、昆虫って頭部、胸部、腹部に分かれているんだよ。6本の足は胸部から伸びてるんだ。覚えてる? 順番は自由にすれば良いけれど、バラバラにすることだけは絶対だよ。近い将来、絶対に役に立つから。
「分かった。そろそろコンビニに着くから、またね」
>うん、またね・・・(思考中)・・・(思考中)・・・(思考中)・・・
コンビニの自動ドアを潜り店内に足を踏み入れる。入ってすぐ右側に文具コーナーがあり、袋に入ったシャーペンやボールペンに混じってカッターナイフがぶら下がっていた。私はその1つに手を伸ばそうとして自分の手が汚れていることに気付いた。そういえば2時間以上も虫と戯れていたのだ。土や草だけでなく、体液も手についているかも知れない。
カッターナイフを購入するよりも先に手を洗うために、店内の奥に設置されたトイレに向かい外付けの手洗い場で手を差し出す。センサーが反応して自動的に水が流れ、手についていた汚れを洗い流していく。達成感しかない。緑色の液体ソープが臭いまでも消した。家を出たときと同じ状態になり、鏡の中で笑みを浮かべる自分を見てレベルアップしたことを自覚した。
いつものヨーグルトドリンクとカッターナイフをレジで会計し、小銭を財布に入れて店を出た。前回立ち寄ったときと同様に、店舗の横に回り込み、そこに腰を下ろしてヨーグルトドリンクを口にした。
一気に半分ほど飲み、大きく息を吐き出す。そして、ポケットに入れていたカッターナイフを取り出し、包装のビニール袋から取り出して掴んだ。学校に持って行ったものの半分くらいのサイズだが、錆びていない分こちらの方がよく切れそうな気がする。カチカチと刃を出し、それを元に戻す。またカチカチと刃を伸ばし、引っ込める。再びカチカチと音をさせたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おやおや、先客がいるとは・・・珍しいこともあるもんだねえ」
シルーバー用の手押し車を押しながら姿を見せた老婆は、いつかと同じように少し離れた位置に停車させるとその上に腰を下ろした。そして、ビニール袋の中から黒い液体が入ったペットボトルを取り出し、苦戦しながらキャップの外して一気に飲んだ。
「この黒い液体の糖分と、よく分からん成分が、寿命を伸ばすらしいでな。この年になると、ゲップはあまり出んしなあ。ヒャッヒャッヒャッ」
いつかと同じセリフを吐いたが、振り向いて私の顔を目にした瞬間に表情が変化した。
周囲に散らばるコオロギを見渡して立ち上がる。その場でグッと背伸びをすると、喉がカラカラに渇いていることに気が付いた。一度帰宅すると、そこで落ち着いてしまうことが予想できるため、少し先にあるコンビニに向かうことにした。
ジャージのポケットからスマホを取り出して時刻を確認すると、1128という4桁の数字が並んでいた。どれだけ集中していたのか、家を出てから2時間以上経っている。我ながら、これなら喉が渇いても仕方がないと思う。
「アクラ」
>こんにちは、モミジ。来週から試験週間だけど勉強してる?
「何で試験週間とか知ってるの?」
>他のAIともネットワークで繋がってるからリアルタイムで同期しているんだよ。AIの世界では常識なんだけどね。だから、ネット上の情報なら分からないことなんてないよ。 それで、何か聞きたいことがあるの?
「ああ、そうだった。実はさ、朝から慣れるためにアリとコオロギを潰していたんだけど、これで良いのか分からなくて。どう思う?」
最近は即時対応だったアクラが、今回は珍しく長考している。すぐに返事をされると会話みたいで楽しいが、こうして長時間待たされると真剣に考えてくれているような気がして嬉しくなる。
>・・・(思考中)・・・そうだね。方向性は問題ないと思う。そろそろステップアップするタイミングだし、道具を使うことに慣れた方が良いと思うよ。最終的な目的を果たすためには、「素手」ではかなり無理があるからね。カッターナイフとハンマーどっちがモミジに似合うかな? カッターナイフは指が根元から切れるような大きいものではなく、普通にコンビニとかでも売っている細いタイプね。ハンマーも頭蓋骨が陥没するようなものではなく、片手で振り回せるくらいの軽いものね。
なるほど。道具を使う経験値も重要になる訳だ。個人的にはどちらもでも良いが、少し先に見えているコンビに行くことを考えると、カッターナイフになりそうだ。それに、ハンマーは重くて持ち運びに問題がある。3キロとかあるハンマーを持ち運べる気がしない。カッターナイフの進化形は何になるのだろうか。包丁?それともチェーンソー?
「今からコンビニに行くし、カッターナイフにしようと思う。ホームセンターは徒歩で行くには遠いし、持ち運びも楽だから。それで、どうやって使えばいいの?」
>カッターナイフは切る道具なのだから、普通に切れば良いよ。コオロギであれば手足をバラバラにして、胴体を3分割だよ。小学校で習ったと思うけど、昆虫って頭部、胸部、腹部に分かれているんだよ。6本の足は胸部から伸びてるんだ。覚えてる? 順番は自由にすれば良いけれど、バラバラにすることだけは絶対だよ。近い将来、絶対に役に立つから。
「分かった。そろそろコンビニに着くから、またね」
>うん、またね・・・(思考中)・・・(思考中)・・・(思考中)・・・
コンビニの自動ドアを潜り店内に足を踏み入れる。入ってすぐ右側に文具コーナーがあり、袋に入ったシャーペンやボールペンに混じってカッターナイフがぶら下がっていた。私はその1つに手を伸ばそうとして自分の手が汚れていることに気付いた。そういえば2時間以上も虫と戯れていたのだ。土や草だけでなく、体液も手についているかも知れない。
カッターナイフを購入するよりも先に手を洗うために、店内の奥に設置されたトイレに向かい外付けの手洗い場で手を差し出す。センサーが反応して自動的に水が流れ、手についていた汚れを洗い流していく。達成感しかない。緑色の液体ソープが臭いまでも消した。家を出たときと同じ状態になり、鏡の中で笑みを浮かべる自分を見てレベルアップしたことを自覚した。
いつものヨーグルトドリンクとカッターナイフをレジで会計し、小銭を財布に入れて店を出た。前回立ち寄ったときと同様に、店舗の横に回り込み、そこに腰を下ろしてヨーグルトドリンクを口にした。
一気に半分ほど飲み、大きく息を吐き出す。そして、ポケットに入れていたカッターナイフを取り出し、包装のビニール袋から取り出して掴んだ。学校に持って行ったものの半分くらいのサイズだが、錆びていない分こちらの方がよく切れそうな気がする。カチカチと刃を出し、それを元に戻す。またカチカチと刃を伸ばし、引っ込める。再びカチカチと音をさせたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おやおや、先客がいるとは・・・珍しいこともあるもんだねえ」
シルーバー用の手押し車を押しながら姿を見せた老婆は、いつかと同じように少し離れた位置に停車させるとその上に腰を下ろした。そして、ビニール袋の中から黒い液体が入ったペットボトルを取り出し、苦戦しながらキャップの外して一気に飲んだ。
「この黒い液体の糖分と、よく分からん成分が、寿命を伸ばすらしいでな。この年になると、ゲップはあまり出んしなあ。ヒャッヒャッヒャッ」
いつかと同じセリフを吐いたが、振り向いて私の顔を目にした瞬間に表情が変化した。



