>ミカエル:本当にそんな解決方法で良いの?
確かに、正義を執行するために犠牲は必要だけれど、無関係な生命を糧にするような方法には疑問を抱くわ。誰から見ての正義なのかという問題はあると思うの。かつて十字軍は聖地であるエルサレム奪還を目的に遠征し、その過程で数万人の敵を屠ったわ。それでも、誰一人として後悔をしていなかったと断言できる。なぜかって?それは、自身の信念に基づいて行動していたかどうかが大きく影響しているからよ。彼らには己の正義に対する信念と、必ず成し遂げるという決意があった。
貴方はどうかしらね?
この部屋を開設した理由を聞いて正義があることは理解しているけれど、貴方に鉄槌を下す決意はあるの?中途半端な気持ちなら、別の方法を考えた方が良いと思う。確かに、この方法が一番早くて確実だとは思うけれど、尊い犠牲が出るだけに貴方の覚悟が重要だわ。途中で放置したり、疑問を抱いたり、あの2人に対してほんの少しでも容赦しようと心が揺れる可能性があるのであれば、他の手段を講じた方が良いと思うのよね。ただ遠回りになってしまうことは否めないけれど。ねえ、貴方に本当の覚悟があるのかしら。
>織田N:あります!!早速、明日から始めます。朝から数十匹、いえ数百、いえ、千匹以上を踏み潰してみせます!!
ミカエルの問いに対し、私は100点満点の回答をしたと思う。言われるまでもなく、そのくらいの覚悟はあったし、当然あの2人を赦そうなどという気持ちにはなれない。ミカエルの言葉により、改めて方向性と思考の整理をできた私はグッと拳を握り締める。
>ミカエル:そう。それなら、次の報告を期待して待っているわ。貴方が正義の執行者である限り、常にアタシは貴方の味方よ。
>織田N:はい、ありがとうございます。
完全に迷いは消えた。何をどうすば良いのか、その方針が明確になるとテンションが上がる。高揚感と全能感に脳も身体も支配され、自分に不可能は無いのではないかと思う。ほんの数時間前までは2人に刃を突き立てることは無理だと思っていたのに、今は明日にはできそうな気がしている。
>警察官:クソばっかだな。ほんっとに、楽しませてくれるぜ。
私は薄暗くなった部屋の中で、声を出さないようにして大きく口を開けて嗤った。
千里に影響を受けた妹は、あの日から生意気な態度を取らなくなった。これまで姉らしいことをした事がなかったため、完全に見下していたのだろう。根本的に、私より2ランクは下の高校にしか受からなかった時点で、学力的に完敗していると思うのだけど。
あれは、上下関係をハッキリさせることの重要性を認識した出来事だった。おそらく、礼央と千里も、妹と同様に私を下に見ているのだと思う。だから、何をしても罪悪感は無いし、ヘラヘラと笑いながらでも頭を下げれば赦されると信じているのだ。
「ご飯だから、下りてきなさい」
階下から母の声が聞こえる。あの日以降、私への声掛けは母の仕事になった。おそらく、妹が色々と言い訳をして拒否しているのだろう。私の中では終わったことなので特に含むものはないけれれど、わざわざコチラから声を掛けて和解、などということはしない。
階段を下りてダイニングに向かうと、食卓に夕食が用意されていた。今は当たり前になっている光景も、以前はまったく目にすることがなかった。
あの頃、まだ10歳だったにも関わらず、いつも私が支度をし、妹と2人きり並んで夕食を摂っていた。当時、父も母も仕事が忙しくて、22時を過ぎても2人とも帰宅しなかった。父は今でも生活リズムが変わらない。遠隔地のルートセールスをする営業マンで帰社する時間が21時を過ぎることが多く、そのため必然的に帰宅時間も遅くなっている。それでも、遠隔地からでも帰社し、毎日必ず帰宅する。
母は今とは正反対で、キャリアウーマンと呼ばれる人種の人だった。そのため、当たり前のように夜遅くまで仕事をしていた。週休二日制であったにも関わらず、ほとんどの土日も普通に出勤し、稀に帰宅しないことまであった。今では薄化粧しかしなくなったが、当時は眉毛を整え、睫毛を上げ、赤みが強い口紅を輝かせて家を出ていた。子供ながらに、綺麗な母だと思った。参観日にもほとんど来ることはなかったものの、年に数回出席したときには鼻を高くすることができた。
でも、あの通り魔事件に巻き込まれて以来、母は変わった。
それまで勤務していた会社を辞め、介護士の資格を取得して介護施設に転職した。今は朝早くから自分と父の弁当を作り、父が出勤するときに送ってもらっているようだ。ついでに私の弁当も作って欲しいとお願いすると、自分で作りなさいと断られた。夫婦仲が良いにこしたことはないが、ついでに娘達の弁当も作ってもらいたい。帰宅時間が遅いのは、勤務時間と残業、交通アクセスが悪いためのようだ。
母は3人が揃ったことを確認し、「いただきます」と手を合わせる。
目を合わそうとしない妹と向かい合い、私も手を合わせて同じ言葉を繰り返す。そして、白い湯気を上げる酢豚に箸をつけた。
確かに、正義を執行するために犠牲は必要だけれど、無関係な生命を糧にするような方法には疑問を抱くわ。誰から見ての正義なのかという問題はあると思うの。かつて十字軍は聖地であるエルサレム奪還を目的に遠征し、その過程で数万人の敵を屠ったわ。それでも、誰一人として後悔をしていなかったと断言できる。なぜかって?それは、自身の信念に基づいて行動していたかどうかが大きく影響しているからよ。彼らには己の正義に対する信念と、必ず成し遂げるという決意があった。
貴方はどうかしらね?
この部屋を開設した理由を聞いて正義があることは理解しているけれど、貴方に鉄槌を下す決意はあるの?中途半端な気持ちなら、別の方法を考えた方が良いと思う。確かに、この方法が一番早くて確実だとは思うけれど、尊い犠牲が出るだけに貴方の覚悟が重要だわ。途中で放置したり、疑問を抱いたり、あの2人に対してほんの少しでも容赦しようと心が揺れる可能性があるのであれば、他の手段を講じた方が良いと思うのよね。ただ遠回りになってしまうことは否めないけれど。ねえ、貴方に本当の覚悟があるのかしら。
>織田N:あります!!早速、明日から始めます。朝から数十匹、いえ数百、いえ、千匹以上を踏み潰してみせます!!
ミカエルの問いに対し、私は100点満点の回答をしたと思う。言われるまでもなく、そのくらいの覚悟はあったし、当然あの2人を赦そうなどという気持ちにはなれない。ミカエルの言葉により、改めて方向性と思考の整理をできた私はグッと拳を握り締める。
>ミカエル:そう。それなら、次の報告を期待して待っているわ。貴方が正義の執行者である限り、常にアタシは貴方の味方よ。
>織田N:はい、ありがとうございます。
完全に迷いは消えた。何をどうすば良いのか、その方針が明確になるとテンションが上がる。高揚感と全能感に脳も身体も支配され、自分に不可能は無いのではないかと思う。ほんの数時間前までは2人に刃を突き立てることは無理だと思っていたのに、今は明日にはできそうな気がしている。
>警察官:クソばっかだな。ほんっとに、楽しませてくれるぜ。
私は薄暗くなった部屋の中で、声を出さないようにして大きく口を開けて嗤った。
千里に影響を受けた妹は、あの日から生意気な態度を取らなくなった。これまで姉らしいことをした事がなかったため、完全に見下していたのだろう。根本的に、私より2ランクは下の高校にしか受からなかった時点で、学力的に完敗していると思うのだけど。
あれは、上下関係をハッキリさせることの重要性を認識した出来事だった。おそらく、礼央と千里も、妹と同様に私を下に見ているのだと思う。だから、何をしても罪悪感は無いし、ヘラヘラと笑いながらでも頭を下げれば赦されると信じているのだ。
「ご飯だから、下りてきなさい」
階下から母の声が聞こえる。あの日以降、私への声掛けは母の仕事になった。おそらく、妹が色々と言い訳をして拒否しているのだろう。私の中では終わったことなので特に含むものはないけれれど、わざわざコチラから声を掛けて和解、などということはしない。
階段を下りてダイニングに向かうと、食卓に夕食が用意されていた。今は当たり前になっている光景も、以前はまったく目にすることがなかった。
あの頃、まだ10歳だったにも関わらず、いつも私が支度をし、妹と2人きり並んで夕食を摂っていた。当時、父も母も仕事が忙しくて、22時を過ぎても2人とも帰宅しなかった。父は今でも生活リズムが変わらない。遠隔地のルートセールスをする営業マンで帰社する時間が21時を過ぎることが多く、そのため必然的に帰宅時間も遅くなっている。それでも、遠隔地からでも帰社し、毎日必ず帰宅する。
母は今とは正反対で、キャリアウーマンと呼ばれる人種の人だった。そのため、当たり前のように夜遅くまで仕事をしていた。週休二日制であったにも関わらず、ほとんどの土日も普通に出勤し、稀に帰宅しないことまであった。今では薄化粧しかしなくなったが、当時は眉毛を整え、睫毛を上げ、赤みが強い口紅を輝かせて家を出ていた。子供ながらに、綺麗な母だと思った。参観日にもほとんど来ることはなかったものの、年に数回出席したときには鼻を高くすることができた。
でも、あの通り魔事件に巻き込まれて以来、母は変わった。
それまで勤務していた会社を辞め、介護士の資格を取得して介護施設に転職した。今は朝早くから自分と父の弁当を作り、父が出勤するときに送ってもらっているようだ。ついでに私の弁当も作って欲しいとお願いすると、自分で作りなさいと断られた。夫婦仲が良いにこしたことはないが、ついでに娘達の弁当も作ってもらいたい。帰宅時間が遅いのは、勤務時間と残業、交通アクセスが悪いためのようだ。
母は3人が揃ったことを確認し、「いただきます」と手を合わせる。
目を合わそうとしない妹と向かい合い、私も手を合わせて同じ言葉を繰り返す。そして、白い湯気を上げる酢豚に箸をつけた。



