「最愛の人」に裏切られたとき、死にますか? それとも、殺しますか?

>ミカエル:排除することは確定として、その方法はどうするの? 水筒のお茶に無味無臭の殺虫剤を混ぜるとか、山に入ってカエンダケを探してきて食べさせるとか。方法はいくらでもあるけれど、天罰は間接的ではなく直接的でなければ無意味だと思うのよね。鼻の奥を刺激する臭いがして、耳元で荒い呼吸音がして、そして手に残った感触を確かめて、ようやく罰は完遂されるのよ。

>警察官:おいおい、本官の前で凄いこと言ってる自覚はあるのか?逮捕しちゃうぞ。だが、実際に方法は「刺す」もしくは「押す」か、「毒」か「第三者に依頼する」しかないな。オレは何人も殺人犯を見てきたが、満足そうに笑っていたのは間違いなく前者だ。自分の手を汚した分、充実感や達成感もあるんだろう。まあ、自分が納得できる方法でいいと思うぞ。結局、最後は同じなんだよ。1人なら無期懲役。2人以上なら死刑だ。情状酌量の余地があれば、もっと短くなる可能性もあるわな。

 無期懲役か、死刑?
 刑罰の名称を聞き、自分の中にあるイメージに重ねて怯む。
 正当な報復をして、復讐を果たして、被害者である私が無期懲役や死刑にされるの?そんなバカなことがあるの?本当にそうなら、他人を貶めた者勝ちってことになってしまう。結局、神様も、法律も、被害者である私を見捨てるということ?誰だって、死にたくはない。理不尽に自分が死ななければならないのであれば、泣き寝入りするしかなくなってしまう。

>ヒマ人:なぜ私が罰を受けなければならいのか、なんて思ってるよね。僕も同じことを考えたことがあるから、その気持ちは分かるよ。ああ、僕みたいないヤツと同じなんて言われたらイヤだよね。うん、そうだね、ごめん。でもね、これだけは言っておきたいんだ。分かってるよ。これを伝えたら黙っておくから。もう、静かにしておくから。
 それってさ、もしバレたらって話なんだよ。だからさ、誰が殺ったのか分からないように実行すれば、何の問題もないんだよね。でも、ごめん。僕にその方法は分からないよ。僕は何もできないから。だから、ここで、無責任な未来を推しているんだし。これ以上は、うん、僕は静かにしておくから。

>織田N:私が実行したと分からなければ大丈夫、ってことですか?

 ヒマ人の言葉に対し私は食い気味に訊ねる。
 返事は誰からでもいい。私の期待する言葉を言ってくれれば、誰だって構わない。

>警察官:そうだね。基本的に発覚しなければ罪に問われることはないね。もし、誰にも自分の仕業だと分からないようにやり遂げれば、逮捕されることもないし、罰を与えれらることもない。至る所に監視カメラが設置されているから、なかなか難しいとは思うけど無理ではないよ。実際、7人殺して未だに犯人像さえ分からない殺人犯もいる訳だし。殺人犯というより、シリアル・キラーと呼ぶべきかな。

>ミカエル:そもそも、簡単に見付かることはないわよ。各主要道路に設置されたNシステムや、信号機に隠されているカメラ、これだけ監視体制が整備された環境で、逃亡している犯人は数え切れないほどいるのよ。実際、毎日のように殺人事件が報道されるのに、毎日のように犯人逮捕は報じられない。大丈夫。たとえ証拠があったとしても、簡単にはいかないから。そもそも、天罰は誰にも裁けないのよ。



 ――――天罰は誰にも裁けない。

 誰かが、それを証明して欲しいと願っている。
 アタシはスマホの画面を覗き込みながら、歯を食い縛る。

 アタシは生徒会長なんか、本当にやりたくはなかった。大学推薦に有利だか言う人がいるけれど、それが目当てであれば全く合わない。普通に勉強をして成績を維持(・・)した方が、よほど効率的だ。自分の自由時間を削り、誰も手伝ってくれない生徒会を運営し、学校行事も予算編成も1人でこなす。2年の6月から1年間、大事な時期だというのに勉強する時間が減り、実力テストの順位は学内で二桁に落ちた。評価が上がるはずの生徒会長の役割によって、学校からの評価も地に墜ちた。

 学力が高いだけのアタシは格好の標的だった。仲が良い友達はいないし、当然のように庇ってくれる人もいない。逆に、成績が良いから目障りだと思っていた人は多かったに違いない。だから、遊び相手としては都合が良かったのだ。
 2年生の5月。立候補もしていないのに、他薦で生徒会長選挙に立候補させられた。すぐに誰かの悪戯(イタズラ)だと分かったものの、知名度も低く目立たないアタシは当然のように落選するものと決め付けていた。しかし、実際には他の候補が立候補を取り止めるなどして、無投票で生徒会長が確定してしまった。生徒会長という肩書きは、正直なところそれほど悪い気はしなかった。目立たなかったアタシが日の目を見ることができたのだ。折角の大役なので、生徒会役員と一緒に一生懸命頑張ろうとも思った。

 でも、それが地獄の始まりだった。
 まるで誰かが止めているかのように、生徒会役員に立候補する人がいない。学校側が無理矢理決めても、誰一人として顔を見せない。生徒総会で挨拶をしようとすると、生徒全員が後ろを向いていた。それを見ても、先生は誰も注意すらしなかった。学校の行事は何もかも1人でするしかなかった。ようやく生徒会室に姿を見せた役員は、まとめた資料を故意に混ぜ繰り返して去った。

 誰が主導していたのかは、学校の裏アカウントを見付けて判明した。学校でも目立つ、同じクラスにいる5人組の女子生徒だった。
 それが分かったときから、私は裏サイトのスクショを撮るなどの資料を集め、十分な証拠を揃えて担任に抗議した。
 しかし、何の処分も無いどころか、その資料は担任の手によって廃棄された。そして、最終的には、クラスメートを誹謗中傷するなど言語道断と注意されることになった。

 正義など存在しない。
 正義に味方など誰一人としていない。
 誰も裁かないのであれば、自分が罰を与えるしかない。
 サイトに部屋を作って誰も申請してこないのであれば、自分が申請して一緒に答え合わせをすればいい。