「最愛の人」に裏切られたとき、死にますか? それとも、殺しますか?


「そろそろかなあ」

 セキュリティが万全のマンションで、パソコンの前に座って待機している。待っているのは退屈だからだ。退屈、退屈、退屈。椅子から飛び降りて寝転び、12畳あるフローリングの床を端から端までゴロゴロと転がる。

 あの(・・)サイトで昨日見付けた部屋に、自分を含めなんと4人も参加者がいる。これは、ホンットにスゴイことだよ!!伝説になっちゃうかも知れないよ。4人の参加者など、ネット上の胡散臭い都市伝説スレでも見たことがない。ボクもたまに参加申請をするけど、半分くらいは承諾されないんだよね。申請されること自体が珍しいから、もし申請されるとしても、数日、下手をすると2、3週間後という可能性すらある。だから、待っている間に自力、または他力で解決してしまったり、申請が無くて諦めてしまうこともあるんだと思う。部屋を開設する人は、無駄に行動力はあるからね。あ、根性がないと、そもそもサイトに辿り着けないか。ごめん、ごめん。
 でも、サイトの特殊性を考えると、それで良いかも、なんて思ったりする。だってさ、殺人鬼と犠牲者を作り出すことが真の目的だしさ。だから、参加者が多いほど危険度が高くなるんだよ。あの部屋の致死率は100%だと思う。
 とはいえ、ボクが参加している目的は、それとは違うんだけどね。

 部屋の開設者は、話の内容から女子高生だよね。あれでオッサンだったらビックリだよ。本当に女子高生なら・・・
「んーまだ、5時37分かあ」
 帰宅はもう少し遅いかも知れない。でも、あの雰囲気なら、呑気に遊んで帰ることはないよね。部活、は、どうかな。

 ゴロゴロ転がることにも飽きたため、仕方ないので椅子に座り直して有名サイトのニュースに目を通す。
 相変わらず、明るい話題はない。根拠のないニュースが、「そうかも知れない」的な論調で締め括られている。くだらない。と思いながらも、芸能ニュースの一覧にザッと目を通したところで指が止まった。

明石(アカシ) まりん(24)体調不良による休養宣言をして半年。年明けには復帰する可能性が高い!! 年明けに?」
 ボクはそんなこと、一言も口にしていないんだけど。事務所、それともマネージャーの仕業かな?それにさ、体調不良ではないんだよね。元々、憑依型なんて言われてきたけど、役に成り切るって思った以上に大変なんだよ。どこか自分と似ているキャラクターを演じるなら負担はないんだけどさ、全然違う性格やクセがある他人になっちゃうと、戻れなくなるんだよ。自分が分からなくなっちゃうんだよ。

 だからさ、ボクはホントの自分を探しているんだ。
 あの映画の主人公を演じたボクは、嗤いながら恋人をビルの屋上から突き落とした。
 今日のボクは、どんな()なのかなあ。



「ただいま」

 時刻は18時を少し過ぎたあたり。普通なら、まだ誰も帰宅していない時間だ。しかし、今日に限って妹の朱音がリビングでスマホを弄っていた。後ろから見えると髪形が似ているため、まるで勝手に上がり込んだ千里が寛いでいるよに見えて鼓動が速くなる。
 そんな朱音は私が帰宅してきたことに気付いているはずなのに、まったく反応を示さない。数秒してチラリとこちらを見て大袈裟にため息を吐いた。その態度は姉である私を見下しているとしか思えなかった。実際、そう思っているのだろう。いつもは気にも留めなかった仕草が癇に障る。
 感情を圧し殺し立ち去ろうとした瞬間、肩越しに見えたテーブルの上に私が冷蔵庫に入れたプリンが見えた。

「ちょっと、それ私のなんだけど」
 そう口にすると瞬時に理解した朱音が、振り返っていつもと同じ余裕の笑みを浮かべる。
「はあ?冷蔵庫に入ってたんだから、早い者勝ちでしょ。それにさ、これがアンタのだって証拠でもあるの?名前なんてどこにも書いてないけど?」

 心臓の鼓動が大きくなり、耳の中でガンガンと鳴り響いて理性を揺さぶる。
 いつもであれば、争い事が苦手な私は黙ってこの場を立ち去る。家族関係がギクシャクするくらいなら、自分が我慢することを選択してきた。でも、今はその選択が揺らいでいる。頭に浮かんだ選択肢は「代金を払わせる」と「思い知らせる」だった。

 私は背後から朱音に近付くと、その誰かの影響を受けた色の髪を掴んで引っ張った。
 何が起きたのか分からない朱音は、慌てて起き上がろうとする。しかし、私はプチプチと髪が千切れる音を聞きながら、力づくで振り向かせた。そして、カラコンが入った朱音の目を覗き込みながら、もう一度同じセリフを口にした。

「ちょっと、それ私のなんだけど」

 目を見開いた朱音は一拍置いて我に返った。そして、顔を真っ赤にして私の手を掴み、いつものように言葉でねじ伏せようとする。しかし、朱音の口よりも私の手の方が早かった。私は掴んでいた髪ごと、朱音を後方に押し倒す。そのまま腹部を跨いで座り、マウントポジションから見下ろした。ずっとバスケ部で活動してきた私は、普通の女子高生よりもかなり力が強い。朱音ごときに腕力で負けることはない。

「それ、私のなんだけど」

 朱音は目に涙を浮かべながら視線を逸らした。

「・・・ご、めん、なさい」