2人の様子を観察した後、私は学食に行き売れ残りのパンを購入した。ほとんど学食を利用したことがなかったため知らなかったが、美味しいパンは人気があり、4時間目の授業が終わると同時に猛ダッシュしなければ手に入らないらしい。私のようにのんびり行ってしまうと、見たこともなゴマふりパンや何も入っていない味付けパンしか買うことができない。私はその2種類中2種類のパンを購入して非常階段に向かった。11月ともなれば外は寒いため、わざわざ非常階段でランチをする人はいない。
私は非常階段の1階部分に腰を下ろし、手にしていたゴマパンの袋を開ける。お世辞にも美味しいとは言えないパンを咀嚼しながら、行儀悪くスマホに語り掛けた。
「アクラ、ちょっと意見が聞きたいんだけど」
>どうしたの? 何か困ったことでもあった?
私の呼び掛けに、起動したAIのアクラが返事をした。昨日の情報は共有しているため、今日の出来事を細かく聞かせる。そして、いつものように、アクラに質問をした。私に最適化されているアクラであれば、最も有効な回答を提供してくれるに違いない。
「ねえ、もう赦すとか見逃すなんていう選択肢は無いんだけど、復讐?報復?するとして、どんな方法があると思う?」
自分としても少しは考えたものの、何も思い付かなかった。マンガやWEB小説のようにざまあをしようと考えたものの、ご都合主義のファンタジー世界でもない限り、そんな都合の良い展開は期待できない。結局、私の頭脳では、すぐに行き詰ってしまったのだ。
>そうだね・・・(思考中)・・・駅のホームで電車が入って来ると同時に背中を押すか、1人になったところで背後からサバイバルナイフでメッタ刺しするか、のどちらかが良いと思うよ。後者の場合は、先に鉄パイプで殴っておくと反撃されることもなくて安心だよ。
「AIジョーク」の単語を待つが、アクラの回答はそこで終わりだった。
電車に轢かせるか、自分で刺すかの二択。どちらかといえば、簡単なのは背中を押す方だろう。さすがに、恨みつらみはあるにしても、刺すという行為には抵抗がある。目の前で自分の手によって朱に染まっていく元彼氏や元親友の姿を、嗤いながら眺めるなどという芸当ができるとは流石に思えない。
「アクラ、他に方法はないの?」
>そうだね・・・(思考中)・・・他にもいくつか方法はあるよ。落とし穴に引っ掛けた後、土を被せて埋めるなんてのもエンターテイメント性が高くてオススメかな。それと、至近距離からレンガを投げるっていうのも良いかもね。即死はしないだろうから、とどめを刺すオマケが付いてきてお得だよ。
やはり、お得意の「AIジョーク」が続かない。どうやら本気の回答で間違いはないらしい。
画面を見詰めながら唸っていると、不意に真上から扉の軋む音が聞こえてきた。誰かが2階の非常扉を開け、階段に出てきたようだ。このまま1階まで下りてこられると反応に困ることが予想できるため、ゴマパンと味付けパンを手にして身構える。少しでも階段を下りる音が聞こえたときには、素早く校舎の中に逃げ込む態勢を整えた。
しかし、非常階段の踊り場に立ち止まっているのか、一向に下りてくる気配はない。人数は3人。聞こえてくる声音から、それが男子生徒のものだと分かる。男子生徒のものどころか、そのうち1人の声には聞き覚えがあった。
「オマエさ、千葉といつも一緒にいるけど、高山と付き合ってるんじゃなかったっけ?」
不意に聞こえる自分の名前に肩が跳ねた。その問いについては、私もどう考えているのか聞きたいと思っていた。3人がたむろする鉄板のすぐ下で、息を潜めてその回答を待つ。すると、一拍置いて笑い声が響き、続いて礼央が返事をした。
「一応、そういうことにはなってる。けどよ、アイツのことはもうどうでもいいんだよ。アイツ、ガードが固くて何もさせてくれねえんだよ。手を握っただけで真っ赤になるんだぜ。どうしろって言うんだよ」
「ハッハッハ!!そりゃあ、ご愁傷様だなあ。オレらのような男子高校生は、常時滾ってるのになあ」
誰かが下品な言葉を口にする。その瞬間、ゲラゲラと一層大きい笑いが起きる。
「だけどな、千葉は見た目と同じように軽いんだよ。簡単に股を開きやがった。親友の彼氏にだぜ?イカれてる。彼女にしようとかは思えないけど、遊ぶなら最高だぜ。見た目もまあまあだし、欲求不満も解消してくれるしなあ!!」
「マジで?ちょい、オレにも貸してくれよ。なあ」
「オレもオレも。今度何かおごるからさあ」
再び下卑た高笑いが周囲に響き渡った。すぐ下で当事者の一人が聞いているとも知らず、欲望を剥き出しで騒いでいる。男子高校生同士のノリというものも分からないでもない。裏切り者の醜態が晒されたところで、心が痛むこともない。「ざまあ」とさえ思う。それでも、一人の女としては赦せない。仲間内の会話であろうが、女を見下した態度を赦すことはできない。
そのとき、初めて本気で口にした。
「死ねばいいのに」
私は非常階段の1階部分に腰を下ろし、手にしていたゴマパンの袋を開ける。お世辞にも美味しいとは言えないパンを咀嚼しながら、行儀悪くスマホに語り掛けた。
「アクラ、ちょっと意見が聞きたいんだけど」
>どうしたの? 何か困ったことでもあった?
私の呼び掛けに、起動したAIのアクラが返事をした。昨日の情報は共有しているため、今日の出来事を細かく聞かせる。そして、いつものように、アクラに質問をした。私に最適化されているアクラであれば、最も有効な回答を提供してくれるに違いない。
「ねえ、もう赦すとか見逃すなんていう選択肢は無いんだけど、復讐?報復?するとして、どんな方法があると思う?」
自分としても少しは考えたものの、何も思い付かなかった。マンガやWEB小説のようにざまあをしようと考えたものの、ご都合主義のファンタジー世界でもない限り、そんな都合の良い展開は期待できない。結局、私の頭脳では、すぐに行き詰ってしまったのだ。
>そうだね・・・(思考中)・・・駅のホームで電車が入って来ると同時に背中を押すか、1人になったところで背後からサバイバルナイフでメッタ刺しするか、のどちらかが良いと思うよ。後者の場合は、先に鉄パイプで殴っておくと反撃されることもなくて安心だよ。
「AIジョーク」の単語を待つが、アクラの回答はそこで終わりだった。
電車に轢かせるか、自分で刺すかの二択。どちらかといえば、簡単なのは背中を押す方だろう。さすがに、恨みつらみはあるにしても、刺すという行為には抵抗がある。目の前で自分の手によって朱に染まっていく元彼氏や元親友の姿を、嗤いながら眺めるなどという芸当ができるとは流石に思えない。
「アクラ、他に方法はないの?」
>そうだね・・・(思考中)・・・他にもいくつか方法はあるよ。落とし穴に引っ掛けた後、土を被せて埋めるなんてのもエンターテイメント性が高くてオススメかな。それと、至近距離からレンガを投げるっていうのも良いかもね。即死はしないだろうから、とどめを刺すオマケが付いてきてお得だよ。
やはり、お得意の「AIジョーク」が続かない。どうやら本気の回答で間違いはないらしい。
画面を見詰めながら唸っていると、不意に真上から扉の軋む音が聞こえてきた。誰かが2階の非常扉を開け、階段に出てきたようだ。このまま1階まで下りてこられると反応に困ることが予想できるため、ゴマパンと味付けパンを手にして身構える。少しでも階段を下りる音が聞こえたときには、素早く校舎の中に逃げ込む態勢を整えた。
しかし、非常階段の踊り場に立ち止まっているのか、一向に下りてくる気配はない。人数は3人。聞こえてくる声音から、それが男子生徒のものだと分かる。男子生徒のものどころか、そのうち1人の声には聞き覚えがあった。
「オマエさ、千葉といつも一緒にいるけど、高山と付き合ってるんじゃなかったっけ?」
不意に聞こえる自分の名前に肩が跳ねた。その問いについては、私もどう考えているのか聞きたいと思っていた。3人がたむろする鉄板のすぐ下で、息を潜めてその回答を待つ。すると、一拍置いて笑い声が響き、続いて礼央が返事をした。
「一応、そういうことにはなってる。けどよ、アイツのことはもうどうでもいいんだよ。アイツ、ガードが固くて何もさせてくれねえんだよ。手を握っただけで真っ赤になるんだぜ。どうしろって言うんだよ」
「ハッハッハ!!そりゃあ、ご愁傷様だなあ。オレらのような男子高校生は、常時滾ってるのになあ」
誰かが下品な言葉を口にする。その瞬間、ゲラゲラと一層大きい笑いが起きる。
「だけどな、千葉は見た目と同じように軽いんだよ。簡単に股を開きやがった。親友の彼氏にだぜ?イカれてる。彼女にしようとかは思えないけど、遊ぶなら最高だぜ。見た目もまあまあだし、欲求不満も解消してくれるしなあ!!」
「マジで?ちょい、オレにも貸してくれよ。なあ」
「オレもオレも。今度何かおごるからさあ」
再び下卑た高笑いが周囲に響き渡った。すぐ下で当事者の一人が聞いているとも知らず、欲望を剥き出しで騒いでいる。男子高校生同士のノリというものも分からないでもない。裏切り者の醜態が晒されたところで、心が痛むこともない。「ざまあ」とさえ思う。それでも、一人の女としては赦せない。仲間内の会話であろうが、女を見下した態度を赦すことはできない。
そのとき、初めて本気で口にした。
「死ねばいいのに」



