これが普通の恋じゃないなんて、思ってもいなかった。〜家庭崩壊済みの彼女がヤンデレ化したら、俺が1番の被害者になった件〜

「優磨くん、どうすれば私に依存してくれるかな?」

 私はあの日、優磨くんに()()()()――。


 ******


 中学1年の春休み。
 私は、呑気に前の家族と過ごしていた。

「はぁ〜。ちょっと、トイレ⋯⋯」

 深夜、私がトイレで目を覚ますと、()()()()()()()()の電気が()()()()()。いつもならこの時間、両親は寝ているはずなのに。

「何かあったのかな?」

 私は扉を開けようとした。

「ちょっと、あなたこれどういうことよ!」

 母の、大声が聞こえる。普段温厚な母が、ここまで叫ぶのは珍しかった。

「どうって、会社の同僚だよ」
「どうみても浮気じゃない! 腕を組んで歩くなんて、ありえないわ!」

 扉の隙間から差し込む光は、今ではすごく眩しい。

「別にいいだろ。ちょっと仲いい同僚だ」
「嘘よ! 他にも証拠はあるんだから!」

 ドンッ! と、何かを叩く音がする。

「んだよ、うるせぇな」

 父は、わざと聞こえるように舌打ちをし、ため息もする。

「正直に白状しなさい! 浮気なんでしょ!?」

 夫婦喧嘩は、かなりヒートアップしていた。

「離婚したきゃすればいい」
「何よそれ!?」
「はいはい」

 父はそう吐き捨てると、こっちに向かって歩いてくる。

「結愛が起きるだろ。俺はもう寝る」

 ――まずい、バレる⋯⋯!?
 しゃがんでいた私は、逃げようと、急いで立ち上がった。
 その拍子に、足を滑らせ、ずっころんだ。

「いった〜」

 ドォン! と、家中に、大きな音が響いた。

「なんだ結愛、起きてたのか?」

 私はすぐに立ち上がる。

「あ、えへへ〜」

 誤魔化そうと、私は手で後ろ髪をかいた。

「あ、大丈夫。浮気とか、何も⋯⋯」

 そう言おうとしたとき、私でも気がついた。

「まさか結愛、聞いてたのか!?」
「え、えっと〜」

 私は目を泳がせた。そんな私に、父が血相を変えて走ってくる。

「聞いてたのね?」

 後ろから突っかかってきたのは、母だ。私の尿意は、いつの間にかなくなっていた。
 2人の目つきにやられ、仕方なく白状することにする。

「⋯⋯聞いてました。ごめんなさい」

 私は素直に頭を下げた。()()()()、それだけで終わった。


 ******


 後日、私の耳にはこんな言葉が入ってきた。

「結愛、落ち着いて聞け」

 珍しく父が、私と2人きりで話そうとしてくる。

「母さんが――死んだ」

 私はそれを聞いた途端、言葉が喉をつっかえた。絶句、まさにその言葉通りだった。
 ただ、それを言う父に、一切悲しみの雰囲気を感じなかった。それどころか、喜んでいるような気がした。

「⋯⋯」
「俺は行く。準備がある」

 そこからだった。私の父が、変わったのは。
 父はしばらく家を外すことが多くなった。
 
 
 しばらくしたとき、父は私にこう言う。

「荷物まとめろ」
「⋯⋯え、なん――」
「黙れ! 早くしろ!」

 そんな父の口調を聞いたのは、初めてだった。
 私はそのことに、何も反論できなかった。学校から帰った直後。動きづらい制服を身にまといながら、身支度を済ませた。

 私は大きなバッグに全てを詰め込んだ。
 最初は、引っ越しでもするのかと、少しはしゃぎ気味だった。
 
「ねえお父さん、もしかして――」
「お前は出てけ」

 父は、冷酷にそう言い放つと、ため息を漏らす。そのため息には、悲しみは感じられなかった。

「⋯⋯わかった」

 私は渋々家を出ていくことにした。今、父を怒らせたらまずい、そう判断した。

「⋯⋯とは言ったものの、どうしようかな」

 家に泊めてもらえるような、そんな仲のいい友人はいない。
 とりあえずなにかないかと、私はいつもの空き地に向かった。


 ******

 
「あ、雨」

 私がしばらく歩いていると、急に黒雲が空を覆い、大粒の雨を垂らし始める。

「とりあえず、あそこでいいや」

 私は、屋根になりそうな木々を見つけ、そこへ行く。
 そこでしゃがみこんだ。

「これから、どうしよう⋯⋯」

 気づくと、私の目からも、水滴が垂れていた。
 頬をつたって流れる涙は、豪雨とともに地面に溶けた。

「あ、あの、だい、じょうぶ、ですか?」