これが普通の恋じゃないなんて、思ってもいなかった。〜家庭崩壊済みの彼女がヤンデレ化したら、俺が1番の被害者になった件〜

 あれは、中学2年のとき。
 その日は突然、豪雨が街を襲った。グラウンドも、すぐにベチャベチャになり、部活は中断。
 とりあえず校舎に逃げ込み、雨宿りをする。

「やべー、俺傘持ってねー」
「それなー! 俺も持ってねんだよなー」

 みんな、平然とスマホを取り出した。連絡でもしてるのだろう。

「お前、迎え来てもらえるって? 俺の親、来れないみたいでさー」
「あ、乗ってく? うち来れるって言ってたし」
「お、いいの? サンキュ」

 俺もスマホを取り出すが、画面は黒いまま。表示されたかと思えば、充電ゲージが0。
 あいにくこの日は、充電器を持っていなかった。俺には、借りれる友達も、いなかった。乗せてもらうなんて、夢のまた夢。

「⋯⋯はぁ」

 思わずため息が漏れる。職員室からは、忙しそうに右往左往する先生たちの様子が見える。

「とりあえず、最寄りのコンビニで、傘でも買うか」

 俺はカバンを頭に乗せ、町並みに合わないほど、大きな看板めがけて、猛ダッシュした。


 ******


 意外とすぐに、コンビニについた。
 いつも、コーチに走らされてるかいがあったか。

「こんなんで、入れてもらえるか?」

 体操服は濡れ、色すらも変わっていた。ポタポタと水が垂れていた。
 そんな迷っている俺をよそに、自動ドアは容赦なく俺を中へ引き込もうとする。

「入るか」

 そんな自動ドアに従い、俺は中に入った。
 ビニール傘だけ手に取り、レジへ運ぶ。

「これ、お願いします」
「わかりました。750円です。部活帰りですか?」

 俺はカバンから財布を取り出した。

「はい。予報では、雨降らないって言ってたんで、持ってこなくて」

 財布から、1000円札と50円を取り出し、トレーに置いた。

「大変ですね。おつりと、レシートです。気をつけておかえりください」
「ありがとうございました」

 色々と親切な店員だなーと思いながら、店を出た。

「よし、これで」

 俺は傘を開いて、ゆっくり歩き始めた。
 豪雨が、傘を叩き、大きな音が響く。大地に打ち付けるような雨だった。

 

「お、やんできたな」

 家まで、しばらく歩いていると、目線の先には、虹が見えた。まだ、ポツポツと、雨の余韻が残る。

「⋯⋯ぐすっ」

 俺が空き地の横を通りかかると、泣いてるような人の声がする。

「⋯⋯気のせいか」

 いつもなら、小学生でパンパンの空き地も、今は誰もいない、()()()()()()

「ぐすっ。⋯⋯ぐすっ」

 やっぱり、声がする。あの木陰の方からだ。

 恐る恐る近づいてみると、俺と同じ制服を着ていた。

「あ、あの、だい、じょうぶ、ですか?」

 空き地の木陰でかがみ込み、泣いている中学生なんて、他にいるのだろうか。

「だ、だい、じょ⋯⋯ぐすっ。うぶ、です」

 明らかに大丈夫ではなさそうな言い方だ。俺は、それが不審だった。

「とりあえず、家来ます? というか、来てください」

 俺は、彼女を立ち上がらせ、先導する。
 こうやって見ると、案外⋯⋯かわいい部類なのかもしれない。

「わかっ、わかりました⋯⋯ぐすっ」
「あの、何か、ありましたか?」

 俺は、丁寧に聞いた。

「い、いえっ。⋯⋯何も」

 彼女の目からは、涙がこぼれた。さっきからずっと、目の潤いがなくならない。
 これはいかん、と、俺は話題を探す。

「君、蒼國(あおくに)中だよね?」
「うん」
「何年生? 2年?」
「うん」
「部活は?」
「うん」

 俺が何を聞いても、『うん』としか言わない。
 とりあえず、その場の時間稼ぎができればいいと思っていたし、よしとしよう。

 
 ******


 しばらく歩くと、俺の家に着いた。
 俺はガチャリ、とドアを開く。俺の前に、誰かが家に入る。
 誰かは、靴を乱暴に脱ぐと、急ぐようにリビングへ向かった。
 その靴を、俺がしれっと直した。

「シャワー入ってくるから」

 俺は母に聞こえる声で言った。彼女にこっちと促しながら、風呂場へ誘導する。
 
 ――それが彼女、いや、結愛との、出会いだった。