これが普通の恋じゃないなんて、思ってもいなかった。〜家庭崩壊済みの彼女がヤンデレ化したら、俺が1番の被害者になった件〜

「そんなの知るか」

 それは、私の話を静かに聞いてると思いきや、一切聞いてなかった。

「めんどくせぇ長文を聞かせやがって」

 それは、私のきれいな腕を、汚物で握ろうとしてくる。

「これ以上抗うな。抗ったら、撃つぞ?」

 その物は、カバンの中から、黒い一丁の何かを取り出した。拳銃だ。
 私はそれを何度見したことか。それほどに驚いた。疑問は、もちろんたくさん出てきた。ただ、今はそんな疑問を整理してるほど、私に余裕はなかった。

「⋯⋯」

 ふと後ろを振り返ると、優磨くんがいる。優磨くんも、同じように、文字通り絶句していた。

「わかったな? 俺に従え」

 その動く物体は、私を引っ張った。

「⋯⋯」

 私は、何も答えなかった。拳銃を出されては、何も言えない。それは、私も優磨くんも、同じだった。

「待てよ」

 ――そう思っていたのが、間違いだった。
 あたりには、低く、どす黒い声が響いた。

「あぁ? なんだお前。撃つぞ?」

 優磨くんに、銃口が向けられている。

「好きにしろ。俺にはいくらでも撃てよ」

 優磨くんのその言葉に、嘘偽りなかった。ただまっすぐで、不器用な目で、その拳銃をとにらめっこしている。

「結愛には撃つな。俺は殺しても、結愛は殺すな」
「⋯⋯はぁ? お前、バカなのか?」

 その物体は、なぜか笑いだした。優磨くんの、その姿勢に。

「自分の命を掛けて、他人を守るなんて――」
「それぐらい! ⋯⋯大切な、人、だから」

 優磨くんの顔は、真っ赤に染まっていた。弾けそうなぐらいに。それと同時に、私も気持ちが沸騰しそうだった。

「だめ! 優磨くんには、生きていてほしいから⋯⋯」

 私の口からも、気づいたら声が出ていた。

「私、ついていくから。何も言わないから」

 私はそこで、口ごもる。すごく、恥ずかしい。――でも、言わなきゃ!

「私は、優磨くんが生きていれば、幸せ、だから」
「⋯⋯ふんっ」
 
 そんな私たちの愛の宣言を、鼻で笑う。私たちを、嘲笑うように。

「なんだお前ら。バカバカしい。そんな愛だけで生きていられれば、世の中苦労しねぇんだよ!」

 その物は、それだけ言うと、また歩き出した。
 優磨くんを、脅して。

「⋯⋯」
「⋯⋯」

 さすがに、もう何も出てこなかった。世の中の現実を叩きつけられては、何も言うことができない。

「入れ」

 私は、無理やり、押し込まれた。車の後部座席に、押し込まれた。

「止まってろ」

 その物は、どこからは手錠を取り出した。
 それを私の手と足に掛けたあと、ガムテープを取り出した。

「何も、しゃべるなよ」

 そう言いながら、私の口にガムテープを貼り付けた。
 私は、両手両足が縛られた。遠くに、優磨くんの視線を感じていた。

「行くぞ」

 その声とともに、車のエンジン音が聞こえる。たった今、この車はどこかへ向かって走り出したのだろう。

(優磨、くん。今頃、何してるのかな⋯⋯)

 まだ別れて間もないのに、もう心配だった。ずっと私の相手をしてくれて、私はすごく嬉しかった。同時に、悲しかった。
 優磨くんを見てると、何か、不思議な感覚がしていた。それが、何かはわからないけど、多分、なにかに似ていたんだと思う。
 優磨くん、無理して接してくれてたもんね。強引に、恋人にしちゃったもんね。私の勝手な都合で。優磨くんを見てると、なぜか、昔のことを思い出したから。なにかが、蘇ってきたから。ずっと、優磨と一緒なら、忘れることが、ないんじゃないかな、って――。