これが普通の恋じゃないなんて、思ってもいなかった。〜家庭崩壊済みの彼女がヤンデレ化したら、俺が1番の被害者になった件〜

「お、おい! 早まるな!」

 俺、浅井優磨(あさいゆうま)の幼馴染、如月結愛(きさらぎゆあ)
 学校の屋上で、足が半分地についていない場所に、結愛は立っている。

「だって。優磨くん、昨日の昼休み、私以外の女子とずっと話してたんだもん」
「別に、そんぐらい⋯⋯」
「もちろん、それだけじゃない。だから、私、飛び降りるんだ。死んで、霊として、ずっと優磨くんのそばにいるって、決めたから」

 結愛に、一切の迷いも感じられなかった。
 俺とて、結愛には死んでほしくない。学校の伝説を作ったほどに、美しかった。そんな結愛でも、クソ陰キャの俺に突っかかってくれる。結愛が死んだら、俺の話し相手が、学校から消え去ってしまう。
 ――思いは、それだけでは、なかった。

「それはやめろ! 俺でいいなら、俺でいいなら、そばにいるから!」

 俺は、知らず知らずのうちに、そう言葉にしてしまっていた。
 
「俺の、大切な、大切な⋯⋯」

 言葉が、詰まる。これだけは、絶対に伝えたかった。伝えなければいけなかった、はずだった。思いつけない。とにかく、結愛を慰めたかった。その一心で俺は、それに代わる言葉を探した。

「俺にできることなら、なんでもやる! だから、だから⋯⋯」

 無意識のうちの、無責任な発言だった。完全に、感情任せになってしまった。
 なんでもなんて、できるわけがない。そんなのは、俺でもわかる。だが、言わなければ、結愛は、この世に――。

 俺はそこで、考えるのをやめた。俺の感情だけに従う、そう決めた。

「なんでも、って言った?」
「⋯⋯あ、あぁ。できること、なら、な⋯⋯」

 俺は、今になって後悔した。もう少し言葉を選んでからにすればよかった、と。

「なら、私の質問には、()()、断らないでね?」
「お、おう⋯⋯」

 結愛の瞳には、輝きが灯っていなかった。
 俺は、顔を引きつらせながら、そう言った。ああ言ってしまった以上は、致し方ない。

「私と、付き合って」

 落ちるか落ちないかの境目で、そんなことを言われた。
 俺はその単語が出たとき、喜びに狩られた。

「付き合うって、買い物か? ゲームか?」

 久しぶりに遊ぶ。誰かと、久しぶりに。
 そう思っていた俺が間違っていた。

「⋯⋯何を言ってるの? ()()()、くん?」
「何って、別に⋯⋯」

 俺は、そのつもりだった。ただ、()()()付き合うだけだ、と思っていた。

「じゃあ、言い方を変えてあげる」
「変えるもなにも――」
「私の、所有物(かれし)に、なって?」

 ⋯⋯彼氏? 付き合うって、そっちの、か。
 
「えっと、断れ――」
「るわけないでしょ?」

 そこには、一切の妥協も感じられなかった。

「⋯⋯お、おん」

 断らせてもらえなかった。
 
「今日から()()()、私と一緒ね? じゃないと、私⋯⋯」

 結愛は、もう一度、下を向いた。その先には、無駄に広いグラウンドが、佇んでいる。
 
「わかった! わかったから、絶対飛び降りるなよ!?」

 結愛は、一度俺に視線を送った。
 数秒間、互いに見つめ合った。それはまるで、俺をテストしてるかのようだった。
 
「⋯⋯じゃあ、一緒に行こ?」

 結愛はようやく、足の全面を、地につけた。弾むような足取りで、俺の正面までやってくる。

「手、ちょうだい?」
「え、なんで――」
「ちょうだい?」

 首を少し傾けながら、輝かしさのかけらもない笑顔で見つめてくる。
 俺は仕方なく右手を結愛に預けた。

「えっと、これでいいね」

 指と指の間に指が入り込んだ。いわゆる恋人繋ぎの状態だ。

「教室、行こうね? それまで――」

 結愛はそこで、言葉を切った。
 俺は、ゴクリと、喉を鳴らす。

「私のことだけ、考えてね?」
 
 結愛の表情は、本気だった。これだけまっすぐ見つめられたことは、あっただろうか。
 俺は、静かに頷いた。このとき、結愛の気持ちを、わかった()()()、だった。

 それが、間違っていた、なんて――。