水道橋の下から見る朝陽が、川面をゆっくりと金色に染めていく。時刻を確認すると午前四時を過ぎていた。
「眠れなかったのか」
振り向くと、昨日の夜に出会った男が、段ボールを畳みながらこちらを見ていた。
さまよっていた末に辿り着いた土手の道路脇で、その男はうずくまっていた。最初は酔っているのかと思ったが、近づいて声をかけると、かすれた声で「腹が減って、少し動けなくなっただけだ」と笑った。「よかったら」そう言いながら、手にぶら下げていたコンビニの袋を差し出した。中には、買ったものの手をつけずに残っていた菓子パンと、水が入っていた。
男はしばらく袋を見つめたあと、深く頭を下げてからゆっくりと受け取った。
それが、このホームレスとの出会いだった。夜の闇の中では年齢など分からなかったが、朝陽に照らされた顔を見て驚いた。勝手にもっと年老いた男を想像していたのに、実際の男は思っていたより若かった。
「……まあ、眠れなくて」
男は「そうか」とだけ答え、缶コーヒーを一本放り投げてよこした。それを慌てて受け止める。
「朝は冷える。飲んどけ」
この橋の下で夜を明かす者にとって、朝陽は目覚まし時計の代わりなのだろう。男は古びたアルミのマグカップを手に取ると、川辺へ向かった。慣れた手つきで水を汲み、拾い集めた木片を並べて小さな火を起こす。やがて炎の上に置かれたマグカップから、かすかな湯気が立ち上った。ここで何度も朝を迎えてきたのだろう。その一連の動作には迷いがなく、まるで自分の家の台所で湯を沸かしているようだった。そんな姿を横目で見ながら、川面へ視線を戻した。
男は佐伯と名乗った。元会社員だということ以外、僕はまだ何も知らない。
缶コーヒーのプルタブを開けて啜る。冷えた身体に少しだけ温かさが広がった。
「家出か?」
不意に佐伯が言った。
「……なんでそう思うんですか」
「こんな時間に、こんな場所でひとり座ってる奴は、だいたい訳ありだ」
「……まあ、そんなことろです」
「なら早く仲直り……いや、何でもない」
自分でも忘れかけていた痣に視線が向くと、佐伯は口をつぐんで、それ以上聞こうとはしなかった。
「眠れなかったのか」
振り向くと、昨日の夜に出会った男が、段ボールを畳みながらこちらを見ていた。
さまよっていた末に辿り着いた土手の道路脇で、その男はうずくまっていた。最初は酔っているのかと思ったが、近づいて声をかけると、かすれた声で「腹が減って、少し動けなくなっただけだ」と笑った。「よかったら」そう言いながら、手にぶら下げていたコンビニの袋を差し出した。中には、買ったものの手をつけずに残っていた菓子パンと、水が入っていた。
男はしばらく袋を見つめたあと、深く頭を下げてからゆっくりと受け取った。
それが、このホームレスとの出会いだった。夜の闇の中では年齢など分からなかったが、朝陽に照らされた顔を見て驚いた。勝手にもっと年老いた男を想像していたのに、実際の男は思っていたより若かった。
「……まあ、眠れなくて」
男は「そうか」とだけ答え、缶コーヒーを一本放り投げてよこした。それを慌てて受け止める。
「朝は冷える。飲んどけ」
この橋の下で夜を明かす者にとって、朝陽は目覚まし時計の代わりなのだろう。男は古びたアルミのマグカップを手に取ると、川辺へ向かった。慣れた手つきで水を汲み、拾い集めた木片を並べて小さな火を起こす。やがて炎の上に置かれたマグカップから、かすかな湯気が立ち上った。ここで何度も朝を迎えてきたのだろう。その一連の動作には迷いがなく、まるで自分の家の台所で湯を沸かしているようだった。そんな姿を横目で見ながら、川面へ視線を戻した。
男は佐伯と名乗った。元会社員だということ以外、僕はまだ何も知らない。
缶コーヒーのプルタブを開けて啜る。冷えた身体に少しだけ温かさが広がった。
「家出か?」
不意に佐伯が言った。
「……なんでそう思うんですか」
「こんな時間に、こんな場所でひとり座ってる奴は、だいたい訳ありだ」
「……まあ、そんなことろです」
「なら早く仲直り……いや、何でもない」
自分でも忘れかけていた痣に視線が向くと、佐伯は口をつぐんで、それ以上聞こうとはしなかった。


