縁側のコンサルタント、世界へ

美智子の畑には、村の若者たちや、隣町からやってきた五十代の仲間たちの姿があった。
美智子は今、自分の野菜を売るだけでなく、村全体の特産品をどうやって世界に発信するかをアドバイスする「地域コンサルタント」としての顔を持つようになっていた。

彼女の手元には、いつもあの本と、Feloがある。

「美智子さん、このカボチャも世界に売れるかな?」

近所の農家仲間が、照れくさそうに聞いてくる。
美智子は微笑んで、タブレットを開いた。

「聞いてみましょう。世界中には、きっとあなたのカボチャを待っている人がいるはずだから」

夕暮れ時。
美智子は一人、縁側に座って黄金色に染まる畑を眺めていた。

五十五歳。かつては「人生の夕暮れ」だと思っていた。あとは静かに、誰からも忘れられていくだけだと思っていた。
でも、違った。

AIという翼を得たことで、彼女の人生は、まるで朝露に濡れた畑が朝日を浴びて輝き出すように、新しい彩りを帯び始めたのだ。

「お母さん、何見てるの?」

帰省してきた娘が、隣に座った。

「ん? 明日のプレゼンの資料を、ちょっとね」
「また? お母さん、本当にパワフルだね」

美智子は、自分の節くれ立った手を見た。
相変わらず土の色は染み付いている。けれど、その手はもう、何かを諦めるための手ではなかった。

新しい世界を切り拓き、誰かの背中を押し、未来を掴み取るための手だ。
窓の外では、また新しい冬が近づいている。

けれど、美智子の心は、春の陽だまりのように温かかった。

「さて、次はどんな夢を、Feloに相談してみようかしら」

美智子の指先が、画面を軽やかに叩く。
その光は、田舎の静かな夜の中で、星よりも明るく輝いていた。

(完)